私は携帯電話を持っていない。現在所持していないだけでなく、一度も購入したことがない。

 老若男女を問わず、それこそ猫も杓子もケータイと睨めっこをしている現在、私と立場を同じくする人がどれくらいいるのか分からない。

 私としても、特に主義主張に基づいて携帯電話を持たないわけではない。ただ、これまでのところ必要に迫られていないので、携帯電話を持っていないわけである。

 もっとも、妻と高校1年生の長男は、それぞれ1台ずつ携帯電話を持っている。職場や学校からの帰宅途中に電話をくれるので、家で帰りを待つ主夫としては、たいへん助かっている。また、家族みんなで出かける時も、別行動を取ってもはぐれることがないので、実に便利である。

 といった次第で、自分で所持していないだけで、私は携帯電話の恩恵に十分あずかっている。

 備忘録の意味もかねて書いておくと、我が家に初めて携帯電話が登場したのは長男が小学3年生の3学期だった。西暦でいうと、2004年3月某日である。

 その2カ月前に、息子が少年野球チームに入部した。練習のスケジュールやお茶当番の順番、それに試合会場までの行き方といった連絡は全てメールでしますと言われて、携帯電話を購入せざるを得なくなった。

 すると、家族内で連絡を取り合う便利を考えてもう1台を購入した方がいいということになり、妻と息子が1台ずつ持つようになったのである。

 一家4人に2台の携帯電話で当座の用は足りており、私は今のところ携帯電話を購入する予定はない。

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 携帯電話を持っていないと言うと、かなり驚かれる。

 「編集者から、緊急の連絡があったりしませんか?」と心配してくれる人もいるが、私は買い物以外に外出をすることはほぼない。都内の書店や展覧会に出かけても半日家を空けるだけなので、自宅の固定電話に用件を録音しておいてもらえば、その日の夕方にはこちらから電話をかけ直せる。