ギリシャ中央銀行のプロボポラス総裁は1月22日にフィナンシャル・タイムズ紙に寄稿した中で、ギリシャはユーロ圏内にとどまるべきだ、と力説した。ギリシャが抱えている財政赤字を中心とする様々な問題の解決はユーロ圏内にとどまっている方が容易だ、というのが寄稿の結論である。中央銀行総裁がユーロ圏離脱という事態にまで触れながら、そうした主張をわざわざ展開しなければならないあたりに、ギリシャ情勢の深刻さが透けて見える。
ギリシャがユーロ圏から離脱して別の通貨を導入しても「魔法の杖」にはならず、その通貨の下落が輸入物価上昇を通じてインフレにつながり、公的債務の返済コストを増やすことになるだろう、と総裁は警告した。確かに、ギリシャが仮にユーロを捨てて新通貨を導入する(あるいは旧通貨ドラクマを再導入する)場合も、ギリシャがすでに抱えたユーロ建て国債などの債務は、ユーロ建てのままである。しかも、ユーロと新たに導入された通貨の為替相場は、ユーロ高に動いていく可能性が高い。したがって、総裁が主張しているように、ギリシャの政府や企業にとって、債務返済負担は重くなる公算が大きい。
「ギリシャがユーロ圏を離脱するかもしれないと示唆する人々は、ホメロスのセイレン(Homer's sirens)のようだ」。ホメロスは、古代ギリシャ最大の叙事詩人。セイレンというのはギリシャ神話に出てくる、美しい歌声で近くを通る船を難破させた半人半鳥の海の精である。誤った誘惑に負けてはいけない、と総裁は主張したわけである。
1月25日には、ギリシャのパパコンスタンティヌ財務相が独紙ウェルト掲載のインタビューで、「ギリシャがユーロ圏を離脱することを断固として排除する」「われわれは独力で財政問題に対処する。財政的な支援を誰にも求めないし、外からの支援にも期待していない」と述べた。しかし同財務相は、財政再建のため避けて通れないとみられている、規模のまとまった増税については、その可能性を否定した。
一方、トリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁は、「すべての国は、自分の家は整理整頓しておかなければならない。ギリシャも例外ではない」「ユーロ圏に入っていることで(ギリシャは)経常赤字のファイナンスが容易になっており、すでに支援されているようなもの」といった厳しい発言を繰り返しており、ギリシャ政府の自助努力を促す姿勢を崩していない。ギリシャをECBあるいは欧州連合(EU)全体が支援するということになると、ギリシャの信用リスクを統一通貨ユーロが事実上抱え込むことになってしまいかねない。財政関連データのごまかしさえ過去に何度もしたことが明らかになったギリシャという「問題児」を、ECBは安易に救済したくないのである。
ユーロ圏各国の中では、ドイツの強硬姿勢が目立つ。ユーロというのはドイツマルクの伝統を受け継ぐ強い通貨であるべきだという認識が、ドイツでは根強い。このため、ユーロの信認を守りたいという思いが、ドイツでは他国よりもはるかに強いのだろう。独連銀のウェーバー総裁は1月22日、「ユーロ圏には通貨に関する信用問題はない。加盟国の1つは財政政策の信用性に問題があり、同国政府は行動しなければならない」と発言していた。