タイトルからだけでは、2つの物語の共通のテーマが何なのか分からない人が多いのではないだろうか。

Box!
百田 尚樹著、太田出版、1,869円(税込)

 『Box!』は名詞の「箱」ではない。動詞「ボクシングする」の命令形。レフェリーが試合開始を宣言する言葉は、かつては「ファイト!」だったが、今は「ボックス!」というそうだ。

 大阪の恵美須高校のボクシング部を舞台に、勉強はできないけれどボクサーとして天性の才能を持つカブちゃん(鏑矢義平)と、中学生まではひ弱な苛められっ子だった優紀の2人の少年の成長物語。優紀は特進クラスで上位5番に入る優等生。同級生の女の子と街を歩いている時に、たまたま、出くわしてしまった中学時代の同級生にボロボロに殴られた屈辱に耐えかねて、周囲の反対をよそにボクシング部に入部する。

 優紀にとっては、見た目も性格も好対照だけれども、子どもの頃からウマがあったカブちゃんが憧れの的。カブちゃんのように強くなりたくて、愚直なほどに努力を重ねる。野生のカブちゃん、理論の優紀。タイプが違う2人が、それぞれに刺激しあい、技術を磨き、かけがえのない存在となっていく。

 マドンナ役は顧問の高津耀子先生。ひょんなきっかけでボクシング部の顧問を引き受けることになった高津先生はまったくのボクシング素人。彼女が監督や部員に問いかける素朴な質問が、読者にとっての適切なガイダンスとなって、自然とアマチュアボクシングのルールを理解しつつ、物語に入りこんでいける。

 辛いトレーニング、手に汗握る試合風景もカラリとした語り口で読みやすく、ほのかな恋物語あり、友情物語ありで、分厚いわりには、読者を飽きさせない。そして、実は、2人の高校生以上に、顧問の高津先生が成長していく様が、大人の読者の共感を呼ぶのかもしれない。

汝ふたたび故郷へ帰れず
飯嶋 和一著、小学館文庫、620円(税込)

 かたや、『汝ふたたび故郷へ帰れず』は、ボクサーの再生の物語。夢破れ、一度はアルコールに溺れてボクシングを捨てるが、故郷の島に戻り、故郷の空気を体中に吸い込むことで、再び、ボクシングに向き合うエネルギーが満ちてくる。

 野球選手やゴルファーに比べれば、プロといっても、微々たるファイトマネーしか手にできない。しかも、本当に、死と隣り合わせで、憎くもない相手と殴り合う。ここで、もう一度、ボクシングを始めてしまったら、不条理で報われない世界に暮らさなければならない。理性は抵抗しても、気がつけば不条理を選んでしまう人間への温かさが物語を包んでいる。

 何度か描かれている試合のシーンには、気がつくと、息を詰めて、体中に力が入ってしまう。2009年12月5日付の「週末読書5」で紹介した『神無き月十番目の夜』もそうだが、飯嶋和一の作品に共通するのは、「生は、いつも、死と隣り合わせにある」という諦念。だからこそ、生きるということが大切に、愛おしく思えてくる。

 『Box!』が、スピード感溢れ、駆け抜けるような場面展開であるのとは対照的に、『汝ふたたび故郷へ帰れず』は、スローモーションで決定的シーンを見せられているような描写。同じくボクシングをテーマにしながら、好対照の2冊。