ただ、なぜ、わざわざ、米国と友好関係にあり、違法行為がバレやすいタイの空港を利用したのかという疑問は残る。
イランに運ぶなら中国の上空を通過するのがもっとも手っ取り早いはずだ。この点に関し、北朝鮮情報に詳しい消息筋は、「中国が不審な北朝鮮関連航空機の上空通過を許可していないためではないか」との見方を示している。
北朝鮮が外貨稼ぎの主要な手段としてミサイルや武器を中東やアフリカの国や反政府組織などに売却していることは広く知られた事実だ。2008年8月にもミャンマーのマンダレーからテヘランに向かう予定だった北朝鮮の民間機が、離陸直前になって、インドの上空通過を拒まれ、本国に引き返すという事案があった。この際も米国からもたらされた情報提供が発端で、核関連物資が積載されていた可能性も指摘されている。
米軍に追跡されミャンマーへの入港を断念した北朝鮮の貨物船〔AFPBB News〕
2009年7月には大量破壊兵器を積載したと見られる北朝鮮の貨物船が、ミャンマー方面に向けて航行中に米軍の監視を受け、目的地入りを断念し引き返した。さらに同月、UAEが北朝鮮製の武器を積載していたとみられる貨物船を拿捕、8月にもインド沖で不審な北朝鮮貨物船が拿捕されている。
表に出てこない事案も含めれば、北朝鮮の武器取引への包囲網は確実に狭まっている。
経済疲弊、背に腹は代えられない北朝鮮
平壌の飛行場でボズワース特別代表を迎えた北朝鮮当局者〔AFPBB News〕
不可解なのは今回の事件が起きたタイミングだ。
ボズワース氏の訪朝で北朝鮮側はこれまで「永遠に終わった」として復帰を拒んできた6カ国協議への復帰の可能性を示唆した。核放棄を確約した2005年9月の同協議共同声明の重要性も再確認し、1年以上中断している協議再開への機運が生まれたばかりだった。
そもそも北朝鮮はオバマ政権発足直後から直接交渉に難色を示す米国に苛立ち、2009年4月には人工衛星の名目で長距離弾道ミサイルを発射、5月に2回目の核実験を実施するなど対米圧力を強化してきた。