石油生産は、物理的・技術的制約から油田の可採埋蔵量の約半分を採掘した時点で生産のピークを迎え、その後、徐々に減退していく。陸上油田でも、海底油田でも、例外なく、いつかはピークを迎え、減耗期に入る。各油田の生産量はベル型のカーブを描くことになるが、それは、地球上にある再生不可能な資源の宿命と言ってもいいだろう。

IEAの本音と建前

メキシコ湾の油田で事故、少なくとも18人死亡、7人行方不明

油田は可採埋蔵量の約半分を採掘した時点で生産量のピークを迎える〔AFPBB News

 もちろん、米エネルギー省やIEAも、石油生産にピークがあること自体を否定していたわけではないが、これまでは「ピークは2030年頃」などと、かなり楽観的な見積もりを出していた。

 ところが、ここ数年、予測を前倒しする傾向にあり、ASPOとの距離は徐々に縮まりつつあった。しかも、IEAの研究者がメディアとのインタビューなどで示す見解は、実はキャンベル博士ら石油ピーク論者とほとんど差がない。

 例えば、「世界エネルギー展望」の取りまとめ責任者であるビロル(Fatih Birol)博士は、2009年8月に英インディペンデント紙のインタビューに応じ、「世界の主要油田は既に生産ピークを越え、世界全体での生産ピークも10年ほどで訪れる」との見解を示した。

 また、「既存油田の生産の減退率は6.7%で、仮に需要が緩やかであっても現在の生産量を維持するには、新たに4つのサウジアラビアを発見しなくてはならない。2030年までの間に中印などの新興国需要に対応するには、6つのサウジアラビアが必要だ」と述べている。

 個人的見解とはいえ、IEAの中心人物が「石油ピーク」について明言することは極めて珍しい。石油ピークについては、1950年代から専門家の間では長年論争が続いてきたが、楽観的な見解を示し続けてきたIEAのような国際機関の研究者と伝統的な石油ピーク論者との主張にほとんど差が見られなくなってきた。論争は収束しつつあるのだ。

 さらに、発言のタイミングがちょうど2009年版報告書の取りまとめ時期と重なっていたため、エネルギー専門家の間では「今年の報告書は、従来とは違う現実論が盛り込まれるのでは」との期待が高まった。ところが、出来上がった報告書は、相変わらず楽観的な「公式発表」が繰り返されただけだった。