市場予想を上回る改善となった米11月分雇用統計発表よりも後ということで市場の注目が集まった、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長による7日の講演。結果は、これまでの慎重な景気・物価見通しを崩さない内容。米国経済が直面している「逆風」に関する形容の機微を通じて、市場で急浮上している来年半ばといった早いタイミングでの利上げ観測に対し、否定的な姿勢をにじませたものと受け止められる。

 3週間前、ニューヨークの経済クラブで行った講演でバーナンキ議長が用いた「逆風」に関する形容と、ワシントンの経済クラブで今回行った講演で用いた形容とを比較してみよう。

【11月16日ニューヨーク講演】

「しかしながら、いくつかの重要な逆風(some important headwinds)、特に、抑制された銀行貸し出しと、弱い雇用市場が、われわれが望んでいるほど景気拡大が堅固なものになることを妨げる可能性が高い」

「回復ペースを抑制するかもしれない2つの主要な要素(two principal factors)、すなわち制限的な銀行貸し出しと弱い雇用市場について、私は議論した」

【12月7日ワシントン講演】

「一方で、拡大ペースが緩やかなものにとどまる可能性を高くしているとみられるいくつかの恐るべき逆風(some formidable headwinds)に、経済は直面している」

「しかしながら、タイトな信用状況と弱い雇用市場を含む、かなりの逆風(significant headwinds)が残っている」

 物価見通しについても、バーナンキ議長は11月4日の連邦公開市場委員会(FOMC)声明文に書かれた内容をなぞりつつ、ハト派寄りの見解を維持した。講演原稿には、「インフレは、方向が異なる数多くの要因に影響される。資源利用率の緩み具合(スラック)の大きさは、賃金や物価の基調を緩やかなものにすることにつながっている。長期的にみたインフレ期待は安定している。商品価格は最近、世界経済の上向きの動きとドル安を反映して上昇した。われわれはインフレを注意深く見守り続けるつもりだが、差し引きすると、しばらくの間、インフレは沈静した状態を維持する可能性が高いようにみえる」というくだりがある。

 ただし、FOMC声明文に明記されている超低金利政策の「時間軸」表現、「より長い期間(for an extended period)」を修正するかどうかといった点までは、当然のことながら、バーナンキ議長は示唆を与えなかった。講演後の聴衆との質疑応答で議長は、「低水準の稼働率、抑制されたインフレ基調、安定した長期インフレ期待を踏まえ、われわれは現時点では引き続き、より長い期間をみている」と返答しつつも、「明らかに最近いくつかの強い兆候があり、われわれは来週(のFOMCで)議論する際に、それを織り込みたいと考えている」と述べた。とはいえ、議長個人の見解が強く投影されたとみられる今回の講演内容(物価についての基本認識が変わっていないことを含む)からみて、今年最後となる次回FOMCでも、「時間軸」の表現に変更は加えられないものと予想される。