読者の周囲でスマートフォンやタブレット型端末の利用者が増えていないだろうか。筆者の周りでも、米アップルの「アイフォーン(iPhone)」やアンドロイド端末を手にしている向きが急増中だ。パソコン販売が伸び悩む一方で、スマートフォン、あるいはタブレット端末の需要が増えていくのは確実だろう。
産業界もこうした需要に目を向けているが、その経営戦略には疑問符がつくものが少なくない。今回はスマホ、タブレット向けの液晶ディスプレイに焦点を当てる。
シェアは確かに世界一になるが・・・
米専門調査会社IDCによると、世界ベースでの2011年4~6月期のタブレット型端末の出荷台数が1360万台に達したという。同社によれば、この数値は前年同期比で4倍のペース。手軽で便利なタブレットが、ノートパソコンを駆逐した結果だと言えよう。
8月31日、ソニー、東芝、日立製作所の3社が中小型ディスプレイ事業の統合で基本合意した。こうした世界的な潮流をにらんでの統合であることは明白だ。
統合の中身を見てみよう。3社の統合に当たっては、官民共同ファンドの産業革新機構(INCJ)が出資し、ソニーモバイルディスプレイ、東芝モバイルディスプレイ、日立ディスプレイズの各事業が新会社である「ジャパンディスプレイ」に譲渡される。2012年春にも統合を完了させ、外部から新たな経営者を招くことになっている。
3社のシェアを単純合計すると21%を超え、シャープを追い越し、世界で一躍トップとなる。
日本企業が韓国、台湾の企業と比較して依然優位にあるとされる中小型ディスプレイ用の高精細の低温ポリシリコン液晶で強力な企業が誕生したことになる。
新たに誕生する会社の議決権比率は、産業革新機構が7割、3社がそれぞれ1割ずつとなっており、官主導で新連合がつくられたことを印象付ける。
主要メディアの論調を見ると、この連合を前向きに評価するものが圧倒的だ。しかし、事態はそれほど楽観的なのだろうか。筆者は「否」との見方をとる。
かつて「1インチ1万円」だった薄型テレビが「1インチ1000円」を割り込むような急激な価格破壊に直面したように、スマホ、タブレット向けの中小型ディスプレイも同じ軌跡をたどると見ているからだ。
コモディティー化までの猶予はあと1~2年
「ソニー、東芝、そして日立も内心ほっとしている」(外資系証券アナリスト)。これは筆者と親しいアナリストが秘かに明かしてくれた情報だ。