11月30日に名古屋で行われた各界代表者との懇談で行った挨拶(講演)「最近の金融経済情勢と金融政策運営」の中で、白川方明日銀総裁は、論者によって定義がまちまちであるとしてこれまで使うことをなるべく避けてきた「デフレ」という言葉を多用。11月20日にデフレ宣言を行った鳩山由紀夫内閣と、デフレについての現状認識で歩調が合っていることを、これまでよりも強く、内外にアピールした(講演要旨の英訳版は日本語版と同時に公表された)。
さらに、為替相場との関連では、金融緩和姿勢を粘り強く継続していくことがいずれは円高を抑止する要素になってくることへの期待感も表明。追加緩和の選択肢については、国債買い切りオペ増額の障害に事実上なっている「銀行券ルール」へのこだわりはまったく示さなかった。事態の推移に応じて今後の追加緩和の選択肢をできるだけ幅広く確保しておきたい意向を白川総裁は示したものと受け止められる。
白川総裁の挨拶では、次のような発言があった(下線は筆者)。
「このところの急速な円高が回復途上の企業マインドに与えている影響、さらには先週末以降の国際金融面での動きが金融市場に影響を及ぼす可能性にも十分注意を払っています」
「金融緩和という面では、昨年末にかけて、金利面から景気をしっかりと支えるため、政策金利を0.1%に引き下げました。この結果、日本の短期金利は現在世界で最も低い水準となっています」
「日本銀行は、日本経済が持続的な物価の下落状態、つまりデフレと呼ばれる状態から脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するという課題達成のために、先ほど申し述べたように、中央銀行として最大限の努力を行ってきましたし、今後もその方針を堅持することを明らかにしています」
「デフレ問題に対処する上では、第1に、経済全体の需給バランスを持続的に改善すること、第2に、景気と物価の悪循環を防ぐこと、特に金融システムの安定を維持すること、が鍵を握っています。日本銀行は、こうした考え方に立って、金融緩和と金融市場の安定確保の両面で、デフレ克服のために最大限の努力を行っていく方針です」
また、11月30日午後に行われた記者会見では、白川総裁から次のような発言があった(ロイター、共同の報道から引用、下線は筆者)。
「為替市場について中央銀行総裁として、あまりこと細かにコメントすることは、市場の憶測を呼ぶので控えたい。ただ、中央銀行は極めて低い金利を維持することをすでに発表しているが、そうした政策方針が十分に、正確に理解されれば、それは為替市場にも相応の影響が及ぶだろう、そういう趣旨で申し上げた」
「(国債買い切りオペ増額問題について)日銀としては、その時々の金融経済情勢を踏まえて、最適の政策を常に考えていく」
「(銀行券ルールについて)障害との発言があったが、われわれ自身は資金を潤沢に供給していく、そのためにどういうふうな調節の枠組みが最も適切かを常に考えている。それを将来にわたって考えている。その障害は、日銀が定めている障害ではなく、中央銀行に課せられた使命である円滑な金融調節を行っていくうえで最適なやり方を追求していくということ。何か、それ以外に障害があるということではない。中央銀行の使命遂行ということに照らして判断をしていくということ」
「日銀は現在、潤沢に資金供給しており、金融市場の安定に努めている。もちろん、金融市場は生き物なので、市場の安定を確保するためにどういうやり方が一番よいかは、常に考えていきたいと思う。いずれにせよ、日銀はいま、潤沢に資金を供給する姿勢にある」