推理ドラマで主役を張る女性刑事のイメージと言えば「長身のカッコイイ系の美女」ではないだろうか。(文中敬称略)

福家警部補の挨拶』大倉崇裕著、創元推理文庫、819円(税込)福家警部補の再訪』大倉崇裕著、創元クライム・クラブ、1680円(税込)新刑事コロンボ 死の引受人』W. リンク / R. レビンソン 著、 William Link / Richard Levinson 原著、大倉祟裕 翻訳、二見文庫、570円(税込)

 映像作品をいくつか挙げてみよう。フジテレビ系列「アンフェア」(原作『推理小説』秦建日子著 河出文庫)の雪平夏見警部補は篠原涼子、テレビ朝日系列「交渉人」の宇佐木玲子警部補は米倉涼子、映画「笑う警官」(原作『笑う警官』佐々木譲著 ハルキ文庫)の小島百合巡査部長は松雪泰子。いずれ劣らぬ美女揃いである。

 残念ながら『福家警部補の挨拶』の主人公・福家は、この流れからは大きく外れている。身長152センチ。童顔にメガネ、就職活動中と間違えられる地味な紺のスーツ。その上、いつも現場に到着してから「確か、入れたハズなんだけど」とカバンの中をごそごそやって警察バッジを探し始める。第一印象は「野暮ったくて、ちょっとダラしない人。色気なし」だ。

 ところが、事件の捜査となると、福家は人が変わる。犯行現場に残されたどんな小さな手がかりも、証言の綻びも見逃すことはない。刑事には見えない容姿を武器にして、するりと容疑者の懐に入り込んでしまう。そして、ストーカーのような執拗さでジワジワと追いつめ、必ずや犯行を認めさせる。気がつけば読者は、すっかり福家ファンになり「カワイイ上に、できる人!」と惚れこむこと間違いなし。

 福家の魅力を最大限に引き出しているのが、「倒叙物」と呼ばれるこの小説のスタイルだ。「倒叙物」という言葉を知らなくとも、「古畑任三郎方式」と言えば、お分かりになるだろう。まず、犯行場面が詳細に描かれ、その後、名探偵や辣腕刑事が登場して、証拠を固めながら犯人を自供に追い込む。つまり、読者は犯人も犯行の手口も最初から分かった上で、愛すべき主人公がどんな鮮やかな推理を展開してくれるのか、犯人とどんな駆け引きをするのか、どんな名台詞をはくのかを楽しむのだ。

 田村正和演じるちょっととぼけた「古畑任三郎」もなかなかに味わい深い人物だったが、しかし、テレビドラマの倒叙物の元祖と言えばロサンゼルス市警殺人課の警部補を主人公とした「刑事コロンボ」。よれよれのレインコートがトレードマークで、酒をこよなく愛し、少々二日酔いで現場に到着するなど困った一面もあるが、捜査はピカイチ。

 「福家警部補の挨拶」の巻末の解説によれば、著者の大倉崇裕は、セリフを暗記するほどの熱烈な「刑事コロンボ」信奉者だそうだ。ドラマのノベライズにも携わっており、『新・刑事コロンボ 死の引受人』(二見文庫)などシリーズの翻訳者に名を連ねている。福家ファンになったあとは、「コロンボ」シリーズで倒叙物の原点に立ち返ってみるのも楽しい読み方だ。