台湾経済について、特にエレクトロニクス産業の視点から紹介しよう。
周知の通り台湾は、現在、パソコン用マザーボードの世界最大の生産地である。台湾企業は、米国半導体企業のインテルからCPUやチップセットをプラットフォーム(調整済みソリューション部品)として調達し、マザーボードやノートパソコンといった自社製品を開発生産。ブランド力のあるパソコンメーカーに納入している。
台湾企業自身は強いブランドや流通網を持たないため、プラットフォームを利用した開発生産に特化しているわけである(正確には、高価なCPUはブランド力のあるパソコンメーカーが調達し、台湾企業に貸与する場合が多い)。
このようなビジネスモデルは「プラットフォーム型ビジネス」とも、「ODM(Original Design Manufacturing)ビジネス」とも呼ばれる。
こうした水平分業型のビジネスモデルは、技術蓄積が小さかった台湾経済に劇的な成長と雇用創出機会をもたらした。2000年には1990年代初頭と比べ、金額ベースで10倍以上の生産額を達成し、世界需要の90%を台湾が供給するに至った。
台湾で聞こえた「ODMビジネス」の先行きへの不安
しかしながら、このようなモデルの産業が台湾に持続的な経済成長をもたらすのかについて、2000年頃には台湾の中でも懐疑的な論調が存在した。
その最も大きな理由は、「中国大陸に台湾資本が逃げてしまうのではないのか?」ということであった。
同じプラットフォームを利用するビジネス形態であれば、インフラコストの安い中国本土に企業は移転してしまうはずである。台湾が空洞化する問題である。
また、今まで興隆を極めてきた台湾企業(マザーボードやノートパソコンの供給メーカー)の利益率が極端に下がってきたことも、台湾経済不安論の原因の1つであった。
台湾のエレクトロニクス産業は、前述したように、先進国企業が提供するプラットフォームを利用して完成品を開発生産するという水平分業型の経済である。
しかし、プラットフォームを利用して完成品を生産するという産業モデルは、新規参入企業を生みやすい。また差別化も難しいため、利益率を大きくすることが難しい。特に2000年以降の競争激化は大幅な利益率低下をもたらした。