「大きすぎて潰せない(too big to fail)企業があるという考え方に終止符を打たねばならない」「リーマンで得た教訓を無視しようとしている者がいる」。大統領が繰り出す言葉には、再び暴走を始めようとしている利益偏重主義を戒める文言がてんこ盛り。その上で、就任時からの政策課題である金融規制改革の必要性を訴えた。
昨年の大統領選終盤、リーマン・ショック後の混乱が続く中、オバマ氏は、当時のブッシュ政権が公的資金注入などで救いの手を差し延べたウォール街の金融機関とは一定の距離を保ち続けた。
この結果、オバマ陣営は不満を抱く民心の掌握に成功。金融オンチぶりをさらけ出した共和党・マケイン陣営の敵失もあり、選挙戦を有利に運んだ。
大統領演説への市場関係者の評価は、「既に打ち出された改革案を並べただけで、新味に欠ける内容」と淡々としたものだった。ただ、直前に首都ワシントンから「敵陣」に乗り込み、マーケットにインパクトを与えようとする演出は、オバマ大統領の意気込みの強さがうかがわれた。
和解認めなかった連邦地裁
その日、市場に緊張感を与えたのは、オバマ演説だけではなかった。
演説会場から北東へ1キロ足らずのところに建つニューヨーク南部連邦地裁。白髪に白ひげをたくわえる66歳のジェド・ラコフ判事が、「米証券取引委員会(SEC)とバンク・オブ・アメリカの和解提案を却下する」として、当局と金融機関の合意を反故にしたのだ。
リーマンが破綻した日、バンカメのルイス会長兼最高経営責任者(CEO)は、満面の笑顔で米証券3位のメリルリンチの吸収合併を発表した。
バンカメは買収に際し、手続き完了までメリル従業員への賞与支給を差し止めることを決めた。ところが最大58億ドル(約5300億円)の賞与の一部はなし崩し的に支払われ、バンカメ株主らはその事実を知らされぬまま、統合を承認した。
その後、メリルが2008年10~12月期に150億ドル(約1兆3700億円)超の巨額赤字を計上したことも判明。資本不足の懸念からバンカメは公的資金200億ドル(約1兆8200億円)の追加注入を政府に仰ぎ、同社株は急落した。
賞与問題については、SECは投資家らへの情報開示義務違反があったとしてバンカメを民事提訴。結局、バンカメが事実関係を肯定も否定もせずに罰金3300万ドル(約30億円)をSECに支払う和解案を提出し、地裁に承認を求めていた。