先日、米国・ワシントンを訪れた。ナショナルアーカイブズ(国立古文書館)で資料を探すためである。米国滞在中に、日本の総選挙で自民党が惨敗し、民主党が圧勝したというニュースを聞いた。予想されたことではあったが、私は「歴史が動いた」と感動した。しかし、周りの米国人で、そのニュースに関心を払う人はあまりいなかった。

 テレビやラジオなどで米国の有識者のコメントを聞いて、その理由が分かった。つまり、日本政府が変わっても、日米同盟の揺るぎない関係は変わらないということである。国益を守るためにも、この関係を覆そうという日本政府は当面生まれないだろうと考えられている。

 さらに、もう1つのもっと重要な理由があると思われる。それは米国の外交の根本的なシフトである。米国は世界のパワーバランスが変化したことに敏感に対応し、今まで築き上げたものを打ち捨てて、新しい価値観と戦略に移ろうとしている。

ますます低下する日本の存在感

 「21世紀を方向づけるのは米国と中国だ」とオバマ大統領が発言し、話題になっている。米国では、「2008年から2010年までの世界経済の成長は、中国がその3分の2を占めるだろう」「G8の対話は実際にはもう価値がない。これからはG2、つまり米中の対談が大きな意味を持つ」といった発言があちこちで見られる。

 中国の強大化が新しい国際秩序を作り出していると米国メディアは強調している。米国にいると、国際政治においていかに日本の存在が小さくなっているかがよく分かる。

 戦後、米国は日本との関係を「一番重要な戦略的パートナーシップ」とし位置づけていた。また、日本は世界第2の経済力を持つまでに上り詰めた。その2つの要因が、国際舞台において日本の影響力を高める柱となっていた。

 だが今、日本の地位は中国に取って代わられようとしている。だとすれば、元々中国の抑止という狙いもあった日米同盟は、その立脚点を失いつつあると言っても過言ではない。

 この10年間以上、自民党は日本の外交を生まれ変わらせようといろいろと工夫してきた。だが、ほとんど成功しなかった。自民党には、乗り越えられない壁や制約があったということだろうか。だからこそ野党政権の誕生は、これからの国際社会で日本の位置づけを新しくする上で、大きなチャンスではないか。

 日本が新政権になっても、日米関係は外交の中心的な位置を保つだろう。これはやむを得ないことだ。だが、米国にとって日本の重要度が低下している今、日本は他国との関係を強化していかなければならない。

 9.11テロも、リーマン・ショックもまだ起きていなかった1997年、当時の橋本龍太郎首相は「ユーラシア外交」という概念を打ち出した。日米安保体制を維持する一方で、ロシアや中国との関係強化をうたったのである。