中国におけるこれまでの30年間にわたる「改革開放」政策の成果の1つは、人権や民主主義といった議論がタブーでなくなったことである。

 2008年12月、人権保護や民主主義の政治改革を求める声明が、インターネットで公表された。このいわゆる「08憲章」に賛同した知識人のほとんどは連行されていない。これまでの中国なら、ほとんど考えられなかったことである。

 胡錦濤政権は政治体制に異議を唱える者に対して予想以上に寛容的だ。これこそ中国社会の大きな進歩と言えるだろう。

 とはいえ、中国の政治改革の進展は決して満足できる状況にはない。北京大学の張維迎教授(経済学)は、「これまでの30年間の『改革開放』政策は経済体制の改革に集中していた。これからの30年間は政治改革に重点をシフトしていかなければならない」と指摘している。

「立法府」「行政のチェック機関」になっていない全人代

 今年3月に開かれた中国の国会に相当する「全国人民代表大会(全人代)」で、呉邦国委員長(議長)はその報告の中で、「我々は西側の議会民主体制と三権分立を導入せず、中国の特色ある民主主義体制を構築していく」と、改めて議会民主主義の政治改革を否定した。

 確かに、現状では西側の議会民主主義制度をそのまま導入したとしても、中国社会に根付くのは難しいかもしれない。「The rule of law(法による統治)」が確立していない中で、無理に西側の議会民主主義制度を取り入れた場合、かえって混乱がもたらされることになる。

 しかし、だからといってこのまま改革をまったく行わないのも問題である。特に、現在の全人代は立法府としての役割を十分に果たしていない。

 本来ならば、全人代は法を整備するだけでなく、採択された法律がきちんと守られているかどうかをモニタリングしていかなければならない。しかし現状では、全人代とは別に、各省庁が勝手に規定や条例を作り、全人代が立法する基本法と対立することも少なくない。ここで、全人代以外のいかなる組織も立法権がないことを再確認する必要がある。

 また、全人代は行政に対する監督の責任を十分に発揮していない。年に1度だけ召集される全人代は、国務院などの政府活動報告を審議する決まりになっている。だが、実際は、政府の活動を審議するというよりも、単なるセレモニーに終わることが多い。特に、財政部が提出する新年度の予算案と旧年度の予算執行報告は、それ自体が大まかで儀礼的なものであり、無駄をなくす審議が行われていない。