中長期的に見ると、中国社会の安定を妨げる最大の要因は、日増しに拡大する所得格差と増幅する不公平感にある。

 経済成長段階においては、低所得層は将来への希望に燃え、よほど窮地に追い込まれない限り暴力的な行為など極端な行動に出ることは少ない。しかし近年、中国では集団的な暴動事件が多発している。その背景に、低所得層の将来への失望がある。

 一言で「格差」と言っても、中国社会のそれは単なる低所得層と富裕層の所得格差という単純なものではない。そもそも、13億人が暮らす中国では、市場競争は国民一人ひとりのスタートラインが異なるため、最初から不公平なものになっている。そのうえ、市場競争の弱者をケアする制度も整備されていないため、社会の不公平感がいっそう強まっている。

都市部と農村部、実際の所得の開きは約10倍?

 現在の中国社会は大きく言えば都市と農村からなる二元化した社会である。しかし、都市と農村の格差がどこまで拡大しているかを統計的に捉えるのは難しい。中国政府が公表している所得統計によれば、平均年収を比べると都市部家計は農村部家計の3.3倍だと言われている。

 しかし、都市部家計の平均年収は給与所得(可処分所得)の合計であるのに対して、農村部家計の平均年収は農家が自家用に作る野菜なども算入される「総収入」である。

 すなわち、都市部家計の平均年収にはサイドビジネスの収入などが含まれていないため、過少評価されている。一方、農家の「総収入」は自家用菜園などで作る食料品も所得に換算されており、過大評価されている。

 中国社会科学院の研究者は、都市部家計のサイドビジネスや幹部がもらう賄賂などを算入し、農家の総収入と比較して、都市と農村の所得の開きは9.8倍に拡大すると推計している。

 経済学では、「ジニ係数」を計算して所得格差を捉えることが多い。ジニ係数は社会の階層間の所得の差を表すものだ。その値は0~1の間になるが、1に近いほど格差が拡大していることを表す。

 ジニ係数を計算するには社会の階層間の所得統計が必要である。中国の所得統計の場合、階層の分類と各階層の所得統計が整備されていないため、推計するしかない。したがって、現行の所得統計を使ってジニ係数を推計するには、その客観性が問題となる。

 ちなみに、世界銀行が推計した中国のジニ係数は0.47に達しており、社会の不安定性を裏付けている。

80年代以降、経済成長とともにどんどん広がった所得格差

 一般的に、経済成長段階には所得格差が拡大する傾向が強い。それは経済開発を急ぐ結果、市場競争が激化し、社会階層間の所得分配が不公平になってしまうからである。

 しかし、経済発展とともに所得再分配の制度が作られるようになると、所得格差は次第に縮小する。横軸を経済発展の度合い、縦軸を所得格差とすると、逆U字型のグラフが表れる。俗に言う「クズネッツ曲線」である。

 ここで注意しなければならないのは、経済発展とともに所得格差が自ずと縮小していくことはないという点だ。重要なのは、経済発展に伴い、所得再分配機能を強化するための制度作りをきちんと行うことである。

 中国では80年代初期において所得格差がそれほど大きくなかった。当時、都市と農村の所得の開きは約2倍程度だった。それ以降、所得格差は経済成長とともに急速に拡大するようになった。

 その原因はどこにあるのだろうか。