去年から今年にかけて、牛に関わる事件が相次いでいる。

 昨年、宮崎県で発生した口蹄疫では、エース級の種牛を含む、実に6万8266頭(県全体の22%)もの牛が殺処分されるという未曾有の被害となった。

 今年も焼肉チェーン店が衛生管理の十分でない牛の生肉を客に提供したために食中毒が発生し、4人が死亡するという事件が起きた。

 そこに福島県の畜産農家が牛に餌として与えていた稲わらから放射性セシウムが検出されて、汚染の疑いのある肉牛が全国各地に出荷されていたことが分かった。その後、新潟・山形の両県からも同様の肉牛が出荷されていたことが判明し、7月19日時点で計648頭の出荷が確認されている。

 言うまでもなく、福島第一原発の炉心溶融事故によって飛散した大量の放射性物質によって引き起こされた事態であり、政府と各地の自治体は流通経路の特定に追われている。

 判明しているだけでも流通は29都道府県に及び、一部は既に消費されてしまったと思われるという。

 業者が保管していた肉を検査したところ、食品衛生法が定める基準値(1キロあたり500ベクレル)を超える肉も見つかった。個体によって差はあるが、最大で1キロあたり4350ベクレルであり、その牛肉を何度か食べた程度では、健康にほとんど影響はないと専門家は話している。

 そうは言っても消費者が警戒するのは当然であり、しばらくの間は牛肉の買い控えや焼肉店での飲食を控える人たちが増えるのは避けられない。多品種を扱うスーパーマーケットはともかく、生肉の小売店や焼肉店はかなり深刻な状況に追い込まれるのではないだろうか。

 酪農家の被害も大きく、政府は福島県内で肥育されている牛の出荷と移動を禁止した上で、全頭検査を実施する方針だという。しかしながら、全頭検査をしたところで風評被害を防げるという保証はない。現に、7月19日に東京都の食肉市場で行われたセリにおいては東北産和牛の値段が暴落と言ってもいいほどの下落をした。