8月末の総選挙での政権交代はほぼ確実な情勢だ。しかし、世間一般での人気とは裏腹に市場関係者の間では「初めて政権を担う民主党の経済運営は危うい」(大手機関投資家)と警戒されている。
民主党政権の誕生が、金融市場にもたらす影響として、まず思い浮かぶのは、長期金利の上昇だろう。子ども手当の創設や高速道路無料化など、現政権よりバラマキ度が強く、財源としての国債増発の可能性が高いためだ。ただ、国債を国内消化できる日本では、長期金利上昇の影響はほぼ国内市場に限定されると言っていい。
長期金利上昇よりも危険なドル暴落
世界経済への影響を考えると、本当に危険なのは外貨準備の見直し論だ。
外貨準備の在り方について、民主党の中川正春ネクスト財務相は、内外メディアに対し、「ドル安による為替差損を抑制するため、円建て米国債(サムライ債)の発行や保有外貨の多様化などが必要」との認識を示している。
「為替リスク抑制のためのドル保有の削減」案はドル暴落を誘発する危険をはらんでいる。基軸通貨であるドル相場が下落すると、バブル崩壊の痛手から立ち直りつつある世界経済に悪影響をもたらすのは確実。民主党政権が世界経済の爆弾となりかねないのだ。
民主党は7日に開いたマニフェスト(政権公約)に関する市場関係者向け説明会で、「(中川氏発言は)ブレインストーミング的なもの」(大塚耕平政調副会長)とトーンダウンしたが、完全否定するには至っていない。
民主党の外貨準備見直し論を検証する前に、そもそも外貨準備の存在意義とその規模が膨らんだ経緯をおさらいしておこう。
日本政府の円安政策が外貨準備の膨張を招いた
外貨準備とは「外国為替資金特別会計」(外為特会)で保有する外貨資産を指す。その規模は2009年7月末時点で1兆226億5700万ドル(約100兆円)に達する。外為特会は円相場の安定を図るために存在する。日本は1973年の変動相場制移行後は恒常的な円高局面にある。円相場の急騰を阻止するため、政府・日銀は頻繁に「円売り・ドル買い」介入を実施。その結果、保有外貨は増大の一途をたどった。言い方を換えると、現在の膨大な外貨準備は、円相場の安定に努めた結果でしかない。
もちろん、為替相場の不安定化は円高方向だけではく、将来的には、円が急落することも考えられる。この場合は、従来とは逆パターンの「ドル売り・円買い」介入が必要になる。これに伴って外為特会で保有する外貨は売却され、外貨準備は減少していく。
外貨準備は円相場の動向によって増えもするし、減りもする、という性格のものだ。これまでは円高局面であったことが外貨準備の増大につながったが、将来円が急落して通貨防衛が必要となる局面では外貨準備は貴重な介入原資となる。
少子高齢化で日本経済が衰退過程に入ったとみるなら、円の下落に備えて現在の外貨準備はそのまま温存するのが妥当だと考えられる。