日本とフランスのこの10年を振り返って見た時、庶民の感覚で最も差があると思うのは、物価の推移である。物の値段が変わらないか、あるいは下がったものもあるという日本に対して、フランスではデフレという言葉をまず聞かず、ここ最近になって状況が変わり出した不動産を除けば、物の値段が上がるのは当たり前という感がある。

バカンス中を狙って公共交通機関が毎年のように値上げ

 例えば、公共交通機関。フランスでは慣習的に7月1日をもってこの料金が値上がりする。皆がバカンス気分で浮き立ち、ある人は既に日常の活動をしばしお休みしているこの時期に、電車やメトロ、バスの値段がちょっぴりではあるけれども確実に上がるのである。

 疑問の余地のない値上がりも腑に落ちないし、それがいつもこの時期にあるというのが、私にはどうしても姑息に思えるのだが、市民はこれに声高に反対することなく受け入れている。危機を連呼する今年ですら、それはやっぱり年中行事のように値上がりした。

 平均して2%という数字ではあるけれども、これが毎年積み重なると全く大きな違いになる。

付加価値税が5.5%になったことを記したカフェのメニュー。 オムレツの項目の値下げ対象はプレーンオムレツのみ

 とはいえ、今年の7月1日には、ちょっとした異変があった。例によって公共交通機関は値上がりしたけれども、飲食店に関する税金が下がったのである。これまで、フランスで外食をした場合、お客さんは19.6%の付加価値税を内税として払っていた。

 つまりメニューの値段のうちの約2割が税金だったというわけだ。それが、いきなり5.5%になるというのだから、何とも画期的な違いである。

 では、レストランやカフェのメニューの値段が軒並み14%下がるのかというと、どうやらそうではない。

 例えば、レストランの場合、前菜、メーン、本日のおすすめ、デザート、セットメニュー、そしてアルコール以外の飲み物のうち、7品目以上の値段を少なくとも11.8%下げるというもので、ファストフードの店なら、メーンの商品について少なくとも5%の値下げというのが、財務省からの通達。

税金が下がった分は飲食店の懐に?

 公的な文書のその後には、具体例も出ていて「20ユーロのコースメニューでは、顧客は2.4ユーロの値下がりを享受でき、1.60ユーロしていたコーヒーならば、これからは1.40ユーロになる」と、ご親切である。

 では、ひと月あまり経って、実際のところはどうなっているのかというと、私が時々利用するカフェのコーヒーの値段には、全く変化がない。ただし、レシートの明細の付加価値税の部分は、しっかりと5.5%と変わっている。