落語の世界の「住人」として、よく知られるのは八つぁん、熊さん。だがそれ以外にも、長屋のご隠居、与太郎、幇間(たいこ)・・・と個性豊かで魅力的な面々が数多く登場する。甘ったれで、頼りなさげな「大店の若旦那」もまた、この世界には欠かせぬ住人である。
苦労知らずに育ったおかげで、若旦那は世の中の常識にとんと疎い。格好ばかりつけたがり、損得勘定は苦手。大旦那からは「しっかりしろ」と何度となくお目玉をくらうが、本人は至って平気で落ち込みもしない。
周りの人間はそんなお気楽な所業に振り回される一方だが、なぜか憎めない。勘当され、落ちぶれても、誰かしら救いの手を差し伸べる。「唐茄子屋政談」「船徳」などの噺でお馴染みの「若旦那」は概ねこうしたキャラクターの持ち主だ。
その「若旦那」と日本航空。政府が経営危機に陥っている日航に対し全面支援に乗り出すことを決めて思ったのだが、どこか似ていやしないか。
政府が「尻拭い」、「国頼み」経営の歴史
政府が2009年6月22日に決めた日航支援の中身は、まさに異例と言わざるを得ない。政府は直接、日航の経営再建を指導・監督していく。そして日本政策投資銀行とメガバンク3行による総額1000億円規模の危機対応融資を通じ、全面的に日航の再建を支援する。このうち政投銀融資の80%については、政府保証を付けるというものだ。
信用力の低い、中小企業の話ではない。日本を代表する大企業の1つである日航への融資に、政府がわざわざ手厚い保証を付けるのである。しくじりかけた若旦那(=日航)のことを慮って、「もしもの時はその尻拭いは私が引き受けますので、どうかお見限りのないようよろしくお願いします」と方々の関係先に頭を下げて回る大旦那(政府)の姿が、頭の中に浮かんでくる。
前身が政府出資の特殊法人である日航は、これまでも国頼みの「甘ったれ」経営を行ってきた。米同時テロが発生した2001年、新型肺炎(SARS)が流行した2003年も、経営が苦しくなると日航は政府にすかさず助けを求め、政府系金融機関による緊急融資で危機を回避した。そして今回も約600億円の融資を、政投銀から受けるのだ。正直言うと、「またか」である。
それだけ立派な後ろ盾があるにもかかわらず、日航は安定した業績をコンスタントに残すことができない。加えて、日本エアシステムとの統合以降は「経営再建の歴史」と言ってよいほど、何度となく再建計画を作り直しては、実施に移す取り組みの連続だった。だが、その成果が十分な形となって表れた試しはほとんどない。
2009年3月期の連結最終損益は631億円の赤字。2010年3月期も世界的な不況で落ち込んだ航空需要の本格回復は難しい上、さらには新型インフルエンザ発生による悪影響もあり、赤字はほぼ同額の630億円になる見通しだという。
再建に責任を負う立場の金子一義国土交通相は日航に対し、「痛みを伴う大幅なコスト削減計画を聖域なく真摯に検討するよう指導・監督していく」と言うが、さてどうなることやら。今夏をめどに策定するという注目の「経営改善計画」の中に日航経営陣に対してはもちろん、政府の意に沿ってでき得るすべてのコスト削減策を漏れなく盛り込みたいと考えているのだろう。
だが、更なる不採算路線の減便・撤退、「高給取り」と批判を受けるパイロットの給与カットなど、予想されるコスト削減策のどれ1つ取っても、調整が簡単に進むとは思えない。