インターネット発祥の地である米国は、長年にわたってネット覇権を握ってきた。中国の猛追により、相対的なパワーは落ちているものの、3月6日付の当コラム「ネット覇権は多極化するか」で指摘したように、オバマ新政権でのICT(Information and Communication Technology)政策強化の動きや変わらぬシリコンバレーのイノベーション力の結果、米国の優位が簡単に衰えることはなさそうだ。
米国ワシントンD.C.、サンフランシスコ、シリコンバレーを訪問する機会があり、米国の覇権の現状と、それに迫る中国のパワーバランスをリポートしよう。
まず、「ネット覇権」を規定する要因を以下の6項目に整理した上で、それぞれについて分析する。
- (1) 技術力、イノベーション力。大学と企業の開発力。技術を事業化する起業力
- (2) ICT産業力
- (3) ネット市場力。マーケットの大きさとそれを支えるICTインフラ整備度
- (4) ネット文化力。ネット上を流れる言語、コンテンツの量と質
- (5) ネット外交力。ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)、国連IGF(The Internet Governance Forum)などのインターネットガバナンス諸機関や国際標準ISOでの交渉力や発言力
- (6) サイバー軍事力
イノベーション力は健在
第1の点。米国全体の科学力、特に義務教育における学力が衰退していることは、以前から言われている。1985年の「ヤング・レポート」、2004年の「パルミサーノ・レポート」でも指摘されているところである。オバマ政権もこのことは十分認識して教育関連投資に重点を置いているが、即効性があるとは言えないだろう。
一方、シリコンバレーは米国というより、イノベーションを生み出すための特異な国際都市という側面がある。スタンフォード大学に代表されるような優れた教育開発拠点群があり、中国やインド、欧州ばかりでなく最近ではイスラエルや韓国からも多くの優秀な人材が集まり、周辺には起業のためのあらゆる環境が整っている。
現在ベンチャーキャピタル(VC)は、さすがに世界的金融危機の影響で厳しい状況にあるものの、基本的にイノベーションを生み出す社会システムに衰えは見られず、「グリーン」「バイオ」といった分野へは、着実に金が集まっているという。
存在感高める中国・華為
第2の点。ICT産業は、米国企業がリードしてきた。1980年代は、通信機器、半導体、コンピューター、90年代になるとソフトウエア産業、システム産業と時代の中心は米国であった。ICT企業もIBM、マイクロソフト、インテル、グーグル、アマゾンなどパイオニアはいずれも米国企業だ。現在も、クラウドコンピューティング等の新しい潮流はシリコンバレー発と言っても過言ではないだろう。