6月4日バラク「フセイン」オバマ大統領がエジプトのカイロ大学で話したスピーチが、ひと月近く経つのにまだ話題から消えない。おしなべて皆、良かった良かったと言う。あんまりたくさんの人が手放しでほめるから、ちょっと水をかけてみる。
そもそもこのスピーチ、成功を収めるのは赤児の手をひねるより簡単だった。ジョージ・ブッシュ大統領時代に米国がイスラム圏に残した負のイメージは、言ってみれば“陰の極”に達していたから、何を言おうが今よりは得点になる。もちろん作成者にはそれがわかっていたはずだ。
カイロ・スピーチの狙いとは、マイナス100くらいに落ち込んだ米国の悪印象を、この演説1本でゼロまで戻せないまでもそこへ近づけられれば大成功というもので、野心的といえば野心的だがただそれだけ。イメージの化粧直しだけを狙ったことがわかる。
実質的内容は「スカスカ」
なんでわかるかといえば、実質的内容はスカスカだからだ。政策として打ち出すタマ、機軸に、ひとつとして見るべきもの、新しいものがない。
よくよく見れば具体策が一、二盛られてはいるけれど、予算措置など必要がなさそうな小ネタである。ホワイトハウスは、スピーチを伝えるメディアに「米国、ナニナニを実施へ」という見出しを立てて報じさせることなど、初めから狙っていなかったのである。その意味では大胆に割り切ったスピーチだ。
聴衆の反応を見ていると、コーランから引用したところでいちいち大受けしている。
仕事に真剣なスピーチライターだったとしたら、草稿作成の準備に取りかかった2カ月前くらいから、コーランの英訳本を見て使えそうな言葉を自分で漁っただろう。
適当なヤツだったとしたら、「オイ、コーランから10くらいなんか持ってこい。イケてる言い回しならなんでもいいから」とか言って、ぺーぺーの部下に丸投げしたかもしれない。
結果としてはこの後者、手抜き作業だった可能性を否定しきれない仕上がりである。至極簡単な章句を、いかにも文脈にはめ込んでみましたという感じが、ありありのものなので。
こんなもので受けるの?
それなのに聴衆は拍手また拍手。スピーチライターが内心「え? 受けるだろうとは思ってたけどこんなものでいちいち受けるの?」と内心ほくそ笑んだ、と言って悪ければ、喜んだだろう様子が目に浮かぶ。