海外出張から戻ると、よく日本の特殊性と課題について考えさせられます。例えば、新型インフルエンザへの対応です。

 今回の「大騒動」では予測がつかない展開の中、誤解を招く情報の伝達や、実際、誤報もありました。国や自治体、事業体などが「万全」を期そうとするあまり、過剰な反応に走る気配もありました。その動きを報道が様々な形で取り上げたことで、さらに不安を助長し、混乱を招いてしまったようです。

 広報に携わる者として、この騒動についていろいろなことを考えさせられました。

 こうした騒動は、世の中を駆け巡る情報によって生まれます。何よりも情報の発信者がバランスを保ち、冷静で理にかなった広報体制を持つことが不可欠です。今回のように国民の安全を揺るがす危機を前にした場合、行政、民間、およびマスコミが連携を取り、協調的な広報体制を構築することが必要となります。

日本の良さを知ってもらわなければならない

 現在、日本の良さを海外にアピールしなくてはならないという動きがあります。

 例えば、東京都は日本オリンピック協会と足並みを揃えて、2016年に行われるオリンピックを東京に招致しようとしています。

 6月16日には石原慎太郎東京都知事が自ら国際オリンピック委員会(IOC)の本部があるスイスに出向き、IOC委員を前にして「ぜひ東京に投票を」とアピールしてきました。

 また、日本政府観光局は「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を打ち出し、2010年に訪日外国人旅行者数を1000万人にすることを目標にしています。しかし、ここに来て景気の低迷と世界的な新型インフルエンザ発生のダブルパンチによって、キャンペーンは大きな打撃を受けているようです。

 このような報道を最近、見聞きすることもあり、海外の人々の目に映る日本の姿がとても気になるのです。

オヘア空港で目立った白いマスク

 今回の出張では、シカゴのオヘア空港を経由し、日本へ戻ってきました。米国でも新型インフルエンザの感染を最小限に抑えるために、国民一人ひとりに配慮を促す公共ポスターなどが目につきました。

 米国での市民への呼びかけは、「念入りに手を洗いましょう」「消毒液を使いましょう」「人混みを避けましょう」、そして「熱と咳などの症状が出た場合の適切な処置をしましょう」といったものです。基本的に日本で言われている内容と違いはありません。

 しかし、「感染を予防するためにマスクをしましょう」という呼びかけはありませんでした。マスクの着用には、日本の常識が世界の常識として通用していない文化の溝が見え隠れします。

 国際線のゲートが並ぶオヘア空港の廊下を進み、日本行きフライトの搭乗ゲートに向かうと、ゲートに近づくごとに白いマスクで顔半分を覆う人々の数が増え、目立ち始めました。オヘア空港には米国人だけでなく様々な国の人がいましたが、マスクをしているのはみな日本の観光客のようです。