今回からしばらくの間、「本流トヨタ方式」についてお話ししたいと思います。

 まず、一般に知れわたっている「トヨタ生産方式」ではなく、なぜこの連載でわざわざ「本流トヨタ方式」という言葉を使っているのか、皆さんは疑問を持たれることでしょう。そこから説明したいと思います。

「戦略」「戦術」「作戦」の違い

 「戦略」「戦術」「作戦」と言う軍事用語があります。『大辞林』(三省堂)によれば、以下のような違いがあります。

(A)「戦略」(Strategy)
(1)長期的・全体的展望に立った闘争の準備・計画・運用の方法。

(B)「戦術」(Tactics)
(1)個々の具体的な戦闘に於ける戦闘力の使用法。普通、長期・広域・広範の展望を持つ「戦略」の下位に属する。

(C)「作戦」(Operation)
(1)戦う際の計画。敵に対する計画。兵団のある期間にわたる対敵行動。
(2)個別の戦闘行動

 この考え方は、以下のように企業経営にもそのまま当てはめて考えることができます。

(A)「戦略」
代表権を持つトップの成すべき仕事。例えば、経営理念の明確化。長期的経営計画、社会、環境との関わり等々。

(B)「戦術」
執行役員から上級管理職迄の成すべき仕事。中短期の経営実務等々。

(C)「作戦」
一般管理職から作業者までが、実務として成すべき仕事。日々の職場運営。安全・品質・納期・原価の維持管理。改善活動を通じての自己実現。チームワーク作り等。

トヨタ内でも真意が理解されなかった

 この文脈上で「トヨタ生産方式」の歴史を見るとどうなるでしょうか。

 トヨタ自動車は三河の片隅の豊田自動織機製作所から始まり、いくたびもの困難に遭遇し、時には潰れかかったりしましたが、今日では世界一の自動車グループへと成長を遂げました。

 ここまで成長する過程では、(A)の「戦略」の部分は豊田佐吉氏、豊田喜一郎氏、豊田英二氏などの歴代のトップが担ってきました。

 トヨタ生産方式を生み出した大野耐一氏の名前はご存じでしょう。大野氏は、(C)の「作戦」から始め、「戦術(B)」の立場である工場長を経て、最後は(A)の副社長の立場でトヨタ生産方式をまとめ上げたと言われています。