世界貿易で自動車の輸出総額を上回る産業が、外国人旅行客にカネを落としてもらう「国際観光」だ。市場規模は140兆円に達し、中期的にも高い成長が見込まれる。各国が熾烈(しれつ)な旅行客争奪戦を演じている中、ようやく日本は観光庁(国土交通省の外局)が発足した。この分野に限れば、日本は赤字大国であるし、中進国のレベルにすぎない。しかし、人口減少時代に突入した今こそ、日本再生に向けて国際観光を基幹産業に位置付ける必要がある。なお、記事中の統計類は国交省の観光白書や日本政府観光局(JNTO)の国際観光白書、国連世界観光機関(UNWTO)の資料などに基づいている。
2006年の統計で世界の国際観光収入と国際旅客運賃収入を合計すると、1.4兆ドルに達する。これはモノとサービスの輸出総額(14.2兆ドル)の 9.7%に当たる。原油などの燃料(1.8兆ドル)には及ばないが、化学製品(1.2兆ドル)や自動車(1兆ドル)をしのぎ、「見えざる貿易」と呼ばれている。
UNWTOの予測によると、国際観光客数は2007年の9億人から、10年に10.1億人、15年には15.6億人に急増する。この数字には現下の金融危機の影響は織り込まれていないが、所得水準の上昇するアジア・大洋州を中心に海外旅行需要の拡大は確実とみられ、国際観光は貴重な「成長産業」と期待されている。
日本は赤字大国、ワースト3位
日本の場合、1億人を超える人口があり、企業や学校の「団体旅行」という独特の慣習にも支えられ、観光業は内需で飯を十分食えた。しかし、総人口が減少に転じたうえ、職場旅行が花盛りだった企業文化も様変わり。気がつけば、日本は国際観光市場で大きく後れを取っていた。日本国内の旅行消費額(23.5 兆円)のうち、外国人が占める割合は5%程度にすぎない。これがスイスやオーストリアは50%を超え、英国やドイツでも20%近くに達する。
日本人の海外旅行者数は1300万人台に落ち込んだ2003年を除くと、近年は1600万~1700万人台で推移。一方、日本を訪れる外国人旅行者数は韓国や台湾、中国からの来訪者が2ケタ成長するものの、総数ではまだ835万人(2007年)にとどまり、日本の海外旅行者の半分。世界で30番目、アジアでも7位に甘んじている。
このため、国際旅行収入(外国人が海外旅行で使う金額)から、同支出(自国民が海外旅行で使う金額)を差し引いた「国際旅行収支」を見ると、日本は 184億ドルの大赤字(2006年)。英国、ドイツに次ぐワースト3位であり、観光白書も「著しく不均衡」と日本の「観光赤字」を特筆している。
一方、フランスが受け入れている海外旅行者数は世界一の8000万人に達し、人口(6300万人)を上回る。陸続きの国と島国の単純比較はできないが、観光庁の掲げる「1000万~2000万人」目標は決して高いハードルではない。
フランスは国際旅行収支で151億ドルの大幅黒字を確保し、スペイン(344億ドル)に続いて第2位の座にある。このほか、イタリアや米国、中国、タイ、マレーシアなどでは国際観光が50億ドル超の黒字を稼ぎだし、貴重な外貨を獲得する「輸出産業」に育っている。