2008年、米連邦準備制度理事会(FRB)は「100年に1度の」グローバル金融危機に直面した。その後のFRBの政策は、「『失われた10年』日米比較談義(上)」(5月27日公開)で紹介したベン・バーナンキ(現FRB議長)らの論文「ゼロ金利での金融政策オルタナティブ: 経験的評価」に概ね沿って展開された。2004年の論文で示されていた政策オプションが、サブプライムショック後にFRBが繰り出した金融政策の柱となったのか。そう見ている米国市場関係者は少なくない。(敬称略)

 2008年9月のリーマン・ショック以降、証券化商品に深刻な含み損が発生。カウンターパーティーリスクにすくみ上がった金融機関に対し、FRBは潤沢な流動性を供給した。

米財務長官とFRB議長、銀行以外の金融機関の監督権限求める

がっちりスクラム、ガイトナー財務長官(右)とバーナンキFRB議長(左)〔AFPBB News

 10月成立した緊急経済安定化法に基づき、米当局は7000億ドルの不良資産支援プログラム(TARP)を使い、保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)をはじめとする巨大金融機関に対して実質国有化あるいは、公的資本の注入に踏み切った。

 2009年1月のオバマ政権発足後のバーナンキは、在日米国大使館勤務経験があり、日本の財政・金融を熟知する財務長官ティム・ガイトナーとがっちり組んだ。3月には金融機関から不良資産を買い取る「官民合同ファンド」の立ち上げを後押し。5月7日、両者は米国の銀行持株会社に対するストレステストの結果を公表し、公的資本の更なる注入計画を進めている。

かつて日本の来た道、資本注入→特別検査→・・・

 日本の関係者の目には、バーナンキやガイトナーがなりふり構わず発動する一連の非伝統的政策が、1998年以降の日本の政策に重なり合う。すなわち、金融機関への資本注入→金融庁の主要行に対する特別検査→銀行等保有株式買取機構――と歩んできた道だ。

 しかし、こうした「かつて日本が来た道を米国も歩んでいる」「米国は日本が取った政策を実施すべきだ」といった分析を、受け入れない米国エコノミストも多い。

 例えば、米系大手投資銀行のエコノミストは2008年12月初めの業界向けリポートで、国債買い入れなど非伝統的金融政策の展開を目指すFRB議長を「バーナンキさん(Bernanke-san)」と日本的呼び名で揶揄した。

 また、2008年12月16日付のウォールストリート・ジャーナル紙も、大規模な財政出動を打ち出した次期大統領のオバマに「バラク・オバマさん(Barack Obama-san)」と呼び掛ける記事を掲載。その上で、1990年代の日本の度重なる財政出動が、景気浮揚には無駄だったと細かな計数を交えて力説した。

 バブル崩壊後、日本の政策当局者が取った中央銀行のバランスシート膨張策と巨額の財政出動。それにオバマが手を染めていると「汚名」を着せ、民主党新政権の新たな政策展開をディスカレッジしたかったのだろう。そのため、日本には中銀のバランスシート劣化と巨額の財政赤字だけが残されたいう、教訓を導き出そうと試みていたわけだ。

 しかし、こうした懸念をよそに、オバマは超大型景気刺激策を議会に提示し、最終的に過去最大の7872億ドル規模で成立させた。そしてバーナンキ率いるFRBも米金融機関からの積極的な債券買い入れにより、バランスシートを3年前の2倍以上に急膨張させている。

「失われた10年」、米国に再来するのか

 いわゆる「失われた10年」の間、日本は約100兆円、名目国内総生産(GDP)のほぼ2割に匹敵する不良債権を処理し、13兆円以上の公的資金を金融機関へ注入した。一方、国際通貨基金(IMF)の最新推計では米国金融機関が2.4兆ドル、名目GDPのやはり2割近くに達する損失を抱え、米国は7000億ドルTARPによる公的資本注入を進めている。

 果たして、米国は日本の来た道をたどるのか。米国に「失われた10年」が再来するのだろうか。