4月28~29日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文には、次のような文章が盛り込まれていた。
「FOMCは経済見通しの展開と金融市場の状況に照らして、債券購入のタイミングと全体
額を評価し続けるつもりである(The Committee will continue to evaluate the timing and overall amounts of its purchases of securities in light of the evolving economic outlook and conditions in financial markets.)」
筆者はこれについて、FOMC終了直後に作成したリポートの中で、婉曲な表現ながら追加緩和余地があることを示唆したものだと解釈した上で、現在行われている長期国債購入3000億ドルの期限が切れる秋にFOMCはその継続を決定せざるを得ないだろうし、それよりも前、おそらく市場があまり予期していないタイミングで、増額を伴う購入継続を決定する可能性も十分にあるだろう、という予想を提示した(4月30日『米FOMC「見通し改善」』参照)。20日に公表されたFOMC議事録などは、そうした見方を補強するものになったと考えている。
議事録には、連邦準備理事会(FRB)による大規模な債券購入策は物価安定の下での緩やかな持続的経済成長再開に資するような金融面からの刺激を提供するものだという認識と、すでにアナウンスした金額に沿って債券購入を継続するのが適切だという点で、FOMCメンバーの意見が一致したことを記述。その上で、次のような事実を紹介した。
「メンバーの何人かは、よりペースの速い景気回復を促すため、いずれかの時点で購入の全体額をさらに増やすことが正当化されるかもしれない、と述べた」
「メンバー全員が、資産購入の規模とタイミングを調整するかどうかを決める前に、すでに実施している政策に対して経済・金融状況がどのように反応するか、様子を見ることで一致した」
議事録で、経済動向についてのFOMCの討議内容の記述を見ると、彼らが住宅関連も含めて足元で出ている経済・金融の明るい兆しを注視しており、デフレが長期化するリスクは減退したという認識さえも多くの参加者が表明していたことが分かる。しかしベースの部分では彼らが米国経済の先行きを決して楽観していないこともまた、随所にうかがわれる。
最近の景気指標改善について、FOMCの参加者は、振れが大きい上に数値の改定があることから、「入手されるデータの暫定的な性質」を強調した、という。
また、FOMC内の大勢が、一種の構造不況として今回の景気後退を捉えており、景気回復力が脆弱であるということを十分認識していることも、次のような内容を含む議事録の記述から見えてくる。
米国内外の過去の事例を見ると、金融危機を引き金にして起こった景気悪化はそれ以外の事例に比べて、より深く、長くなる傾向がある。さらに、FOMCの経済見通しにはかなりのダウンサイドリスクがあり、特に世界の金融システムは追加ショックに対して脆弱なままである。商業用不動産関連の損失累積に、何人かの参加者が言及した。さらに先を見わたしても、中期的に景気回復を制約する要因が数多い(クレジット市場の緊張持続、家計貯蓄率の上昇見通し、財政面からの景気刺激効果が減退すること、海外経済の回復が緩やかであるため米国の輸出回復には時間がかかること)。
四半期ごとに発表されるFRB理事および地区連銀総裁による米国経済見通しもまた、彼らが景気の先行きを慎重に見ていることを、数字の形で示すものになっている。
実質GDP見通し(中心的傾向)は、2009年が▲2.0~▲1.3%(10-12月期の前年同期比)に下方修正されたほか、2010年、2011年はいずれも下方修正。失業率は上方修正されており、2009年は9.2~9.6%(10-12月期平均)。4月が8.9%であり、今後上昇を続ける方向であることを考えると、FRB理事・地区連銀総裁見通しは、ストレステストの景気悪化シナリオの
前提である2009年の8.9%(年平均)よりも、明らかに悪い数字。ストレステストの前提条件には、引き続き疑問符がついている。