5月9日にプーチン首相が来日し、麻生太郎首相をはじめとする日本の政治家たちと会談した。今回の訪日が歴史上どのような意味を持つのかはまだ分からない。これからの展開を予測する前に、まずは今回の来日の結果を3つの分野に分けて整理してみよう。
1つ目は相互信頼関係が好転したかどうか、2つ目は経済関係の進展について、そして最後は領土問題に関してである。
2005年の来日時とはまったく違う雰囲気
プーチンは大統領だった2005年にも来日している。その時と比較すると、今回の来日の雰囲気は雲泥の差がある。
2005年は、下田条約締結の100周年記念日である5月に来る予定だった。だが日程がなかなか決まらず、結局やって来たのは11月だった。おまけに共同声明の発表は見送られて、協議を継続する確認だけにとどまっていた。首脳会談で共同声明が発表されないのは異例である。
今回、プーチン首相は日本に来る前、共同通信などのインタビューで、「日本とロシアは、深く密接で、互いに信頼の念に満ちた関係を築きつつある」と強調していた。「日本には、21世紀の技術発展の世界的なリーダーだという自負がある。ロシア人はこれを認めており、友人である日本の成果を喜んで受け止めている」
5月12日には麻生首相との会見の後、共同記者会見に臨んだ。プーチン首相は「今回の訪問は私にとって充実したものになった。会談は建設的な形で肯定的な雰囲気で行われている」と語った。
また今回、プーチン首相はハードなスケジュールの中で時間を割いて、2005年の来日時に意思疎通があまりうまくいかなかった小泉純一郎元首相に面会した。「我々は2人ともによく頑張ってきた。おかげさまで日ロ関係は今大きな成果を収めつつある」と小泉元首相を称えた。
画期的な「日ロ原子力協定」の締結
経済関係の分野で目立った成果として挙げられるのは、「日ロ原子力協定」が結ばれたことである。原子力エネルギーの利用に関して両国の補完関係を築く画期的な協定だ。
ロシアは、全世界の半分近いウランを濃縮する能力を持っている。日本は濃縮設備の容量が少なく、90%以上のウラン濃縮を海外の工場に委託せざるを得ない。そこでウラン濃縮の委託先としてロシアへ大きな期待がかかっていた。
一方で、日本の原子力発電の技術はロシアよりも高い水準にある。ロシアは今後、2020 ~ 2022年頃までに28の原子力施設を建設する計画がある。そのため、日本の協力を取りつけることに強い関心を持っていた。
このように、原子力協定の合意は両国にとって大きなメリットをもたらす。だが、合意への道のりは長かった。
さかのぼると、まず2003年、小泉首相とプーチン大統領が「日露行動計画」について合意し、その中で慎重に「両国は、日露原子力協議を今後も定期的に開催する」と明言した。
2006年1月には、プーチン大統領が「国際ウラン濃縮センター」の設立を提案した。背景にあったのはイランの核開発問題だ。IAEA(国際原子力機関)の監視の下、核の平和利用と拡散防止を確保するのが狙いだった。