(英エコノミスト誌 2024年12月21・28日合併号)
大いに荒れたこの1年は、いくつかの重要な真実に新たな光を当てた。
2024年の本誌エコノミストの誌面は、苦しみにあふれていた。
3つの大陸で戦火が広がった。世界が最も注目したのはガザ、レバノン、ウクライナだったが、熾烈を極めたのはスーダンでの戦いだった。
大嵐、洪水、火事は人々の人生を台無しにし、その命も奪った。
その間にも、中国側に付く国々と米国が主導する西側の同盟との対立が深まった。
おまけに米国では、その同盟に真剣に関与するかどうかが疑わしい人物が大統領に選出された。
従って、一見すると、第2次世界大戦後に姿を現した多国間秩序が崩れているとの感覚が今年になって一段と強まったように感じられる。
各国の政府はますます、力こそ正義であるかのごとく振る舞うようになっている。
独裁者はルールを平然と無視し、そうしたルールを説く西側の大国はダブルスタンダードだと非難されている。
しかし、視野をさらに広げてみると、2024年からはもっと期待の持てるメッセージを読み取ることができる。
まず、米国を含む資本主義陣営の民主主義国家の底堅さが確かめられた。それと同時に、中国を含む独裁国家の弱点が一部露わになった。
以前の秩序に手っ取り早く戻る方法はない。だが、世界大戦が起きるのは、台頭著しい新興大国が衰退していく大国に挑む時だ。
米国の強さは模範を示すだけではない。紛争が生じにくいようにもしている。
史上最大の選挙イヤー、多くの国で政権交代
民主主義国家の底堅さを知る目安の一つに、今年の選挙が平和的な政権交代に至ったことが挙げられる。
2024年には世界人口の半分以上を占める76カ国で選挙が行われ、過去最多を記録した。
本物の選挙ばかりではなく、ロシアとベネズエラのそれは茶番にすぎなかった。
だが、政権を14年間握り続けて5人の首相を輩出した保守党が英国で敗れたように、多くの国の与党が咎めを受ける結果となった。
選挙は悪い結果を回避する良い手段だ。
荒々しい祭りのような民主主義が行われているインドでは、ますます非リベラル化しているナレンドラ・モディ首相の政権が支配を盤石にするつもりでいた。
有権者は違うことを考えていた。
有権者はヒンズー至上主義よりも国民の生活水準向上に力を入れるようモディ氏に求め、選挙で同氏を連立政権へと導いた。
南アフリカでは与党・アフリカ民族会議(ANC)が議席の過半数割れに追い込まれた。
ANCは多くの解放運動がやったように選挙結果を拒否することはなく、改革志向の民主同盟(DA)と連立を組んで統治に当たる道を選択した。
米国では、選挙にまつわる暴力に警鐘が鳴らされるなかで2024年が幕を開けた。
ドナルド・トランプ氏が快勝したことで、そのような事態は免れた。
低いハードルではあるが、これを越えたことにより、米国は当面、このように危険な状況に直面しないで済むかもしれない。
そしてその間に、米国の政治は少しずつ進歩していく。
あれほど多くのアフリカ系やヒスパニック系の有権者が共和党に投票したという事実は、分断を招き、勝利につながらない民主党のアイデンティティー政治がピークを越えたことを示唆している。