7月16日、ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授が来日し、東京・永田町の衆議院第一議員会館で開催されたMMT国際シンポジウムで講演した。

 ケルトン教授は現在、2016年ならびに2020年の米国の主要大統領候補の一人であったバーニー・サンダース上院議員の経済顧問を務めており、MMT(現代貨幣理論)の主唱者の一人だ。

主流派経済学者がこぞって批判するMMT

 このシンポジウムは、筆者が代表をつとめる京都大学レジリエンス実践ユニットが主催したもので、MMT研究を進める中で、論文等を拝読していたケルトン教授を是非招聘したいと考え打診したことから実現したものだ。

 このシンポジウム、および、その後の記者会見等の様子は、テレビ、新聞、雑誌を通して様々に報道されたが、関心のある読者は是非、下記の記事を参照願いたい(https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190718_kelton/)。

 さて、ケルトン教授がこのシンポジウムで主張したMMTというのは、おおよそ次のようなものだ。

 まず、彼女の言葉を借りつつMMTを一言で言うなら、(プライマリーバランスのような)「人工的」な基準ではなく、「インフレ率」を基準として、政府支出(より正確には財政収支)を調整すべき、とする経済理論だ。

 その主張の背景には、現代国家における貨幣は、政府が自ら作り出すものであり、したがって、「自ら作り出す貨幣の借り入れで、『破綻』することなどあり得ない」という「事実」がある。具体的には、政府には「最後の貸し手」である中央銀行が存在するため、国債についての「債務不履行」=「破綻」=「デフォルト」になる現実的リスクは実質上、存在しない、というものだ。

 MMTはこの「事実」に基づいて、政府は、財政赤字や累積債務の大きさに配慮するのではなく、インフレ率が2%あるいは3%程度の適正な水準になることを目指して、政府支出量(あるいは、財政収支)を調整すればよい、と考えるわけである。具体的には、インフレ率が高すぎる状況では財政赤字を縮小させるように「緊縮的」「抑制的」な財政政策を行い、今日の日本のようにデフレ下にあり、インフレ率が低すぎる場合には、財政赤字を拡大させるように「積極的」「緩和的」「拡大的」な財政政策を行えばよい、となる。

 一方、これまでの主流派の経済学や経済政策論では、デフレであろうがなんであろうが、「財政赤字をとにかく縮小することが必要であり、だからこそ、財政赤字がある限り、経済がどんな状況であって消費増税や歳出カットが不可欠なのだ」と言われ続けてきた。だから、主流派経済学者たちは、MMTを批判する傾向が強い。