中央アジアのキルギス共和国は、1月末、数日間にわたってインターネットが接続不能となる「オフライン」状態に陥った。ロシアの「サイバー市民軍」と称する組織が、同国の80%をカバーする大手ISP(インターネットサービスプロバイダー)2社に大量のデータを送り込み、サービス不能の状態にする「DDos攻撃=Distributed Denial of Service attack」を仕掛けたのだ。当時、ロシアはキルギスに対する金融支援やエネルギー関連投資の条件として、同国内の米軍基地の閉鎖を要求しており、サイバー攻撃の背景には、こうした政治的プレッシャーがあったとみられている。

キルギス議会、米軍基地の閉鎖案を可決

サイバー攻撃の背景に米基地問題 (キルギス)〔AFPBB News

 かつて、コンピューター犯罪と言えば、マニアが腕試しにサーバーに侵入する「ハッカー」など、愉快犯的なものが中心だった。その後、インターネット詐欺を運用資金とするサイバーカルテルなど、プロの組織化されたサイバー犯罪者集団が登場。そして、今や、国家レベルで敵対国を攻撃したり、スパイ活動を展開する「サイバーテロリズム」「サイバー諜報活動」が増加しつつある。インターネットのセキュリティーは、「サイバー安全保障」が必要な新しい時代に突入している。

 インターネットを利用した政治活動や政治闘争は、大別すると「アクティビズム」「ハクティビズム」「サイバーテロリズム」の3形態がある。

 「アクティビズム」は、インターネットを合法的に利用して、特定の政治的行動や大義を支持する活動。

 「ハクティビズム」は、ハッキングとアクティビズムを合成した造語で、ハッキング技術を用いて特定のインターネットサイトを攻撃し、サイト運営を困難にするもの。ウェブ上の座り込み(ウェブシットイン)や仮想封鎖(バーチャルブロッケイド)、自動電子メール爆弾、ウェブハッキング、コンピューター不正侵入、コンピューターウイルスやワームなどがその例だ。

 「ハクティビズム」を一段とエスカレートさせ、敵対する政治体制に対して、深刻な経済的損失や社会的被害を引き起こすことを狙って行われるのが「サイバーテロリズム」と呼ばれる。

竹島問題で外務省HPにも攻撃

「ロシア軍、さらにグルジア領内部へ侵攻」 内務省報道官

ロシアの軍事進攻と同時にネットワークも被害(グルジア)〔AFPBB News

 旧ソ連の共和国では、冒頭で紹介したキルギスだけでなく、2007年にはエストニアがサイバー攻撃にさらされたほか、2008年8月にはロシアによるグルジアへの軍事侵攻に歩調を合わせた形で、グルジア政府のネットワークが攻撃を受けたケースがある。サイバー攻撃は、現実の軍事行動と密接に連動して、後方撹乱や相手方の初動の阻止のために行われており、従来から戦闘行為の初期段階で想定される情報戦争のシナリオに即した形で展開された。

 また、コソボ紛争、中国の人権問題、メキシコのサパティスタ国民解放軍の支援活動でも、こうしたサイバー攻撃が活用されたことがある。日本では、首相の靖国参拝や竹島の領有権問題をめぐって中国や韓国との政治的緊張感が高まった際に、外務省のホームページがアクセス不能になったことを記憶している読者もいるだろう。