球春到来。ウォール街からの強烈な不況風に吹かれ、暗いムードが漂うニューヨークに、今年もピンストライプのユニフォームが戻ってきた。彼らが超一流のプレーを披露するのは落成したばかりのピカピカの新球場。野球ファンならずとも、一度は訪れてみたいと思うのが人情だ。(写真も筆者撮影)

不況下でも、高級感が漂う

 ところが、新生ヤンキースタジアムの評判が芳しくない。昨年までは満員御礼が当たり前だった観客席に、空席が目立つ。築85年の旧球場に比べて観戦しやすさが格段とアップ、有名レストランが入店し、清潔感にあふれるトイレなどの設備充実には目を見張るのだが・・・。

 原因は、「超一流」に跳ね上がった入場料。「全てが一流でなければならない」を経営哲学とするオーナー家・スタインブレナー一族の趣味で、贅を尽くした結果の高額料金が災いしているのだ。

家族4人で100万円!?

往年の名選手がよみがえる

 筆者も、開幕から間もない新スタジアムに出掛けてみた。ベーブ・ルース、ルー・ゲーリック、ジョー・ディマジオ、ミッキー・マントルら・・・。往年の名プレーヤーの巨大ポスターが飾られた回廊を抜けると、緑鮮やかな芝生が目に飛び込んでくる。開放感は抜群だ。

 旧球場では体をよじりながら他の客とすれ違っていた通路が一気に広がった。内廊下にずらりと並ぶカウンターでは、定番のホットドッグばかりでなく、握り寿司や日本酒まで揃っている。

 バックネット裏、前2列の特等席の料金は、なんと1席2625ドル(約26万円)。昨年までならば、開幕前に全席が年間予約で埋まり、買いたくても買えない観戦エリアだったが、今シーズンは、あまりの高額のために売れ残ってしまい、今なら球団の公式サイトにアクセスすれば、(懐さえ許せば)誰でも簡単に購入できる。

バックネット裏は26万円の高額

 とはいえ、3時間のゲームを観るために家族4人で100万円もの出費など、庶民には手が届かない。名門チームとはいえ、あまりに非常識な価格設定に、地元ニューヨーク・タイムズ紙も「ヤンキース戦に金を払う? 大学に行く? 車を買う?」と揶揄(やゆ)する始末。

 そもそも、ここ10年でニューヨークでの野球観戦は、「贅沢な娯楽」になりつつあった。筆者が住み始めた2005年以降も毎年入場料が上昇し、2007年暮れのリセッション(景気後退)入りもなんのその。2008年のシーズンはヤンキースだけでなく、もう1つの地元球団メッツも旧スタジアムの最終年に当たり、両球場の料金は一段と吊り上がった。そして、新球場が完成して、観戦チケットの値上がりに拍車が掛かった。

 冒頭で紹介した26万円の座席は別格だが、1階内野席の大部分も、座席にふかふかのクッションが付き、ウエイターが飲食の注文を聞きに来るプレミアシート。この高級席の平均価格は1席500ドル(約5万円)を下らない。