茶の間でただで野球が楽しめた時代は終わるのか

 この「人類史上最大のスポーツコンテンツ」に目をつけたのが、国際オリンピック委員会(IOC)である。しかもIOC側は2年後のロサンゼルス五輪において競技ごとに放映権を細分化し、売却することを検討しているという情報がある。

 そうなれば多くの視聴者を集められる野球・ソフトボールは世界野球ソフトボール連盟(WBSC)の意向もあり、独立した高額コンテンツとして扱われる可能性が高い。

 そして、そこへ早くもネットフリックスの関係者が「ロビー活動」を開始しているという。特定の競技団体に対して直接巨額の資金を投じ、独占的な権利を掌握する。この資本の“暴力”とも言えるビジネスモデルが、五輪という「聖域」にまで浸食しようとしているのだ。

 つまり、2030年のWBCのみならず、2028年のロサンゼルス五輪においても、日本の地上波が大谷ら侍ジャパンの活躍を映し出せなくなる可能性が極めて高いのである。

 私たちが「天覧試合」の熱狂に沸き、大谷の快挙を当たり前のように享受している裏側で、その「視聴する権利」そのものが、巨大なグローバル資本によって買収されている事実に目を向けなければならない。

 日本のオールドメディアは、今なお「ネットフリックスは一過性の脅威に過ぎない」と高を括っている節があるが、それはあまりに楽観的な見通しと言わざるを得ないだろう。

 旧態依然とした古い価値観や一方的な情報発信から抜け出せないメディアの多くがネットフリックスなどの新興勢力を「黒船」と呼び、忌み嫌っている間に“海の向こうの巨人”は日本の至宝である大谷と侍ジャパンというコンテンツを、着々とその巨大な資本力の中に飲み込もうとしている。

 2030年のWBC、そして2028年のロサンゼルス五輪。地上波から大谷の姿が消え、侍ジャパンというコンテンツが「月額料金を払った者だけの贅沢品」へと変質する日は、私たちが考えているよりもずっと近くまで来ている。侍ジャパンの連勝に沸く東京ドームの喧騒の裏でメディアの地殻変動は着実に、そして冷酷に浸食していく。

 かつての「お茶の間の野球熱」がその歴史的な役割を終え、新たな配信時代というビジネスモデルへと静かに姿を変えようとしている。その過渡期の現場に我々は立ち会っているということなのかもしれない。