さらに言えば、指導者とメンバー構成における「物語性」の欠如も無視できない。前回大会で指揮を執った栗山英樹監督は、大谷にとって北海道日本ハムファイターズ時代からの「師匠」であり、2人の師弟関係が世界一を目指すというドラマチックな文脈が国民の情緒に訴えかけた。
対して今大会で侍ジャパンを率いる井端弘和監督は堅実な采配には定評があるものの栗山氏のような独特の語彙力や、ファンを惹きつける「発信力」という点では、どうしても地味な印象を拭えない。
村上宗隆と言葉を交わす井端弘和監督(写真:共同通信社)
また前回大会で一躍人気者となったラーズ・ヌートバー(セントルイス・カージナルス)のような、日本国籍を持たないがゆえの「異色さ」と「献身性」を併せ持つキャラクターが不在であることも、ライト層を巻き込むフックを弱めている。
ネットフリックスにとって「WBC独占配信」は十分な成功
しかし、いざ蓋を開けてみれば、ネットフリックスによる中継は地上波テレビ局が「呪詛」のように唱えていたほど無残な結果にはなっていない。
むしろ、内心では苦々しい思いを抱いている民放キー局の日本テレビと技術協力を結ぶという、したたかな戦略によって配信クオリティは極めて高い水準を維持している。
制作現場では、実況・解説陣の選定において「他社色」を排除しようとする配信プラットフォーム同士の露骨な色分けが行われるなど、ドロドロとした覇権争いも露呈しているが、視聴者数そのものは順調に推移し、その放映内容は総じて好評である。
ネットフリックスが支払ったとされる約150億円という莫大な放映権料についても、同社側は早くも「十分にペイできる」という確信を得ているようだ。有料会員の獲得のみならず、広告効果やブランドイメージの向上を含めれば、最終的には大幅な利益を生むことが確実視されている。