『リブート』(TBS)
3位は『リブート』。まず最近増えた長たらしいタイトルを付けなかったところに視聴者ファーストの精神を感じさせる。肝心のドラマのほうも娯楽要素が隙間なく詰め込まれ、観る側を最大限に楽しませようとしているのが分かる。リブートは和訳すると再起動。この物語では顔を変えて別な人間として再出発することを意味する。
設定とあらすじはやや込み入っている。
主人公は小さな洋菓子店のパティシエ・早瀬陸(松山ケンイチ)。豊かではないが、幸せに暮らしていた。
ところが、ゴーシックスコーポレーションという会社で財務を担当していた妻の夏海(山口紗弥加)が失踪する。2年半前のことだった。早瀬は無事に帰って来ることを祈り続けていたが、白骨遺体となって発見される。殺されたのだ。
早瀬は打ちひしがれた。だが、不幸は終わらない。警察は早瀬を夏海殺しの容疑者と判断し、逮捕状を取る。状況証拠が揃っていた。ハメられた。
早瀬は逮捕寸前で逃走する。逃がしてくれたのは警視庁捜査一課の主任刑事・儀堂歩警部補(鈴木亮平)。夏海殺しの捜査を担当していたから簡単なことだった。善意ではない。儀堂は悪徳刑事だ。ゴーシックス社に捜査情報を流し、見返りを得ていた。儀堂は早瀬に利用価値を見い出していたようだ。この会社がどうして捜査情報を求めていたかというと、やましいことがあるから。犯罪に関わった金を表に出すための洗浄を行っている。
『リブート』主演の鈴木亮平(写真:産経新聞社)
逃走した早瀬は儀堂と人目に付かぬ山中で落ち合う。だが、儀堂は何者かに刃物で刺されており、早瀬の目の前で息絶える。そこにゴーシックス社の現在の財務担当者・幸後一香(戸田恵梨香)が現れ、早瀬に向かって儀堂に成りすますことを勧めた。リブートだ。幸後は儀堂の恋人でもあった。
早瀬は整形して儀堂の顔になる。儀堂のパーソナルデータも頭に叩き込んだ。これで逮捕される心配はない。刑事として夏海の死の真相を調べられるし、犯人も追える。
しかし、良いことばかりではない。まず性格は変えられない。早瀬は純情で真面目だが、儀堂はふてぶてしい悪党。早瀬がキャラも儀堂になろうとして苦労する姿がおかしい。
儀堂に成りすました早瀬は後輩刑事から、夏海が不倫をしていたと聞かされる。落ち込んだ。さらに実母・良子(原田美枝子)からは「夏海さんから1500万円借りていた」と聞かされる。知らなかった。早瀬はまたへこむ。
早瀬は夏海の勤務先だったゴーシックス社が反社会的組織であることも知らなかった。他人に成りすますと、知りたくなかった妻の素顔が見えてくる。悲喜劇が起こる。サスペンスであるこの物語のコミカルな部分である。
脚本は黒岩勉氏。同じ日曜劇場の誘拐サスペンス『マイファミリー』(2022年)などを書いており、家族の絡むサスペンスを得意とする。先の読めないストーリーをつくるのもうまい。この作品もそうだ。
ゴーシックス社代表の合六亘(北村有起哉)は儀堂が自分から10億円を横領したと見ている。事実だったら早瀬が殺される。だが、困ったことに本当だった。隠し通せるのか。
儀堂の妻・麻友(黒木メイサ)は早瀬の成りすましに気づく。そのうえ、儀堂は生きているらしい。早瀬の危機は続く。
ハリウッド映画ばりのスピード感と緊迫感、面白さを実現させた。