『テミスの不確かな法廷』(NHK)
1位は『テミスの不確かな法廷』。司法の場を舞台とし、マイノリティーとの共生などを考えさせる物語。派手さはないが、胸を打つ。名作小説のような味わいと深みがある。
主人公・安堂清春(松山ケンイチ)は任官7年目の裁判官。群馬県の前橋地裁第1支部に赴任してきたばかり。幼いころ、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)との診断を受けている。
『テミスの不確かな法廷』主演の松山ケンイチ(写真:産経新聞社)
実父で最高検察庁の次長検事・結城英俊(小木茂光)の助言により、安堂は誰にも自分のハンディを話していない。「おまえのためだ」と結城は言うが、安堂は結城の体面のためではないかと疑い始めている。次長検事は最高検のナンバー2だ。
安堂が7年間の裁判官生活で下した刑事裁判の無罪判決は2件。刑事裁判の有罪率は99.9%を超えているから、驚異的な数字である。
背景にあるのは安堂の拘りの強さ。裁判を事務的に終わらせることができない。口癖は「分からないことを分かっていないと、分からないことは分からない」。刑事も民事も全容が分かるまで調べる。拘りが強いのはASDの特徴だ。
自分で聞き込みを行う。資料はつぶさに目を通す。気になった資料は他人が読んでいても奪い取って見る。純粋でウソがつけないのだ。やはりASDの人の個性である。
第1回は父親が自死し、母親が失踪、姉も死んだ青年・江沢卓郎(小林虎之介)による傷害と詐欺未遂が扱われた。江沢は反社会的組織とつながっている悪党とされていたが、安堂はそれが偏見に過ぎぬことを見抜く。真相も起訴事実とは全く違った。偏見が招いた誤りだった。
第2回では高校生の傷害、第3回と4回では事故を起こして死んだ運送会社ドライバーの事故原因を問う民事訴訟が取り上げられた。
民事訴訟の原告は大学の獣医学部に通う四宮絵里(伊東蒼)。死んだドライバー・佐久間義之(清水伸)の娘だ。かつて絵里は父親を恨んでいた。父親が窃盗を働いて前科が付き、それが基で母親と離婚したからだ。絵里は父親が養育費も支払っていないと思い込んでいた。
だが、父親は実際には真面目に働き、母親にきちんと送金していた。窃盗も家族のために行ったものだった。だから絵里は父親が死んだ事故の真相が知りたかった。
安堂たちがドライブレコーダーなどを徹底的に調べたことによって、事故の理由は運送会社が日常的に行っていた過積載にあると分かる。ハンドル操作の自由が奪われた。
それが法廷で明らかになると、運送会社側の主任弁護士は絵里への反訴を口にする。スラップ訴訟(高額の賠償金を求める恫喝訴訟)である。学生の絵里が訴訟に耐えられるはずがない。
そのとき、裁判長を務めていた門倉茂(遠藤憲一)が声を上げる。「司法をなめるな」。門倉は安堂の上司に当たる部長判事だ。法廷内は騒然となる。不規則発言だ。しかし、門倉が黙っていようが、右陪席裁判官の安堂が声を上げただろう。純粋でウソが嫌いな安堂は主任弁護士の狡猾な言動に耐えかね、体を激しく揺らしていた。
門倉は若いころには正義を追求し、反逆児と呼ばれたが、それによって冷や飯を食わされ、すっかり牙を抜かれた。2年後に迎える定年の後の転身先ばかり考えていた。だが、安堂と接し、変わった。門倉ばかりではない。前橋地裁第1支部全体が変わりつつあった。
今後は再審が描かれる。「前橋一家殺人事件」である。犯人とされた秋葉一馬(足立智充)は取り調べ段階では自供したが、裁判では無罪を主張した。自白を強要された可能性がある。秋葉の娘・吉沢亜紀(齋藤飛鳥)は新証拠を発見する。
秋葉は既に死刑を執行されている。現実にも死刑執行後に再審が認められたケースはない。もしも再審無罪になったら、無実の秋葉を死に追い込んだ最高検は袋叩きに遭う。次長検事の結城もタダでは済まない。
それでも純粋でウソが嫌いな安堂は信念のままに判決を下すだろう。





