スケートの楽しさも知ってもらえたら

 そんな日下に、長年指導に携わる中で、大切にしていることとは、と尋ねるとこう答えた。

「自分の核にしているのは自分で言うのもなんですけど、穏やかさですね。とにかく人の話をまず聞くことが自分の中で軸にしているものです。上手になりたいから、できないから来るわけじゃないですか。スケートを習い、そこで何が必要か、何が足りないのか、見て判断することも大事ですけど、話を聞くことが、自分の中で大事になっているかなと思います。

『こうやりなさい』と言うだけだったら、こんなに簡単な話はないですよね。その子をメインに、その子のいいところを引き出すのが大切だと考えていることです。常に穏やかに話をにこにこしながら聞いている方なので、例えば忍耐力という言葉は考えたことはなかったですね」

 佐藤の考えや意向を尊重するのは、佐藤に考える力があるだけでなく、日下の指導者としてのこうした姿勢あればこそだった。何よりも伝わってくるのは、選手への愛情だった。

 穏やかさは、もとからだと言う。

「僕の両親がそうだったので」

 そして「家庭に恵まれていた」と言う。

「スケートを始めてから、もちろん嫌になってやめたいなと思ったことはありましたけど、続けられたのは、成績が良かろうが悪かろうが常に応援してくれていたことですね。そこは恵まれていましたし感謝しています。やりたいようにやらせてくれて、だから1日も休まず練習しましたし、自分がそういう風に過ごしてきたから、選手にもやりたいようにやらせたくなります」

 穏やかに人の話に耳を傾けること。浅野から学んで受け継いだ、あるいは浅野が日下にもともと見出していた温かさ。それらは日下の基盤を物語っている。佐藤との、温かさを感じさせる関係もまた、そこから生まれている。

 スケートへの愛着は今も変わりない。

「フィギュアスケートの競技人口がもっともっと増えたら、フィギュアスケートの価値をたくさんの人に知ってもらえたら、と思っています。今は駿自体のことを知ってもらいたいというのがもちろんありますが、それを通じてスケートの楽しさも知ってもらえたら。キスクラもそうですけど、華やかなところを楽しく見てもらえたらなって常々思います。

 フィギュアスケートってものすごく性格が出るんですよ。本人の個性を生かしたスケーターをこれからも育てていきたいなと思います」