日本人の暮らしを根底で支え、国の安全保障とも密接に絡んでいるのに、もはや外国人抜きでは成り立たない産業がある。外航海運業だ。四方を海に囲まれ、輸出入貨物の99.7%を海上輸送に頼る日本。その危うい実態が人々の意識に上ることは滅多にないが、最近こんなことがあった。

ソマリア海賊から人質救出の瞬間、仏軍特殊部隊

ソマリア海賊、人質に銃口〔AFPBB News

 海上自衛隊の護衛艦が海賊対策でアフリカ・ソマリア沖に派遣されてから、約1週間後の3月22日のことだ。ソマリアの東方沖をケニアに向けて航行していた商船三井の自動車運搬船(約1万3000トン)が海賊に襲撃される事件が起きた。ところが、日本メディアの報道はいかにも素っ気なかった。邦人が1人も乗っていなかったからだ。

 例えば3月24日付の朝日新聞朝刊(東京本社最終版)は「商船三井の船を小型船が銃撃 ソマリア沖、海賊か」という見出しで事件を伝えたが、扱いは第2社会面のベタ。「乗組員は全員フィリピン人でけが人はなかった」と、まるで他人事のような書きぶりだ。北朝鮮のミサイル問題が緊迫化していたせいもあって続報すらなく、既に事件は忘れ去られた格好になっている。

 しかし、襲撃事件によって珍しく白日の下にさらされた外航海運の姿は、日本の経済安全保障の命綱が他国頼みで、いかに脆いものであるかを印象付けた。乗組員が全員外国人だっただけではない。商船三井の船とは言っても、船籍は英領ケイマン諸島。日の丸を掲げ、日本人船員が乗り組み、日本の主権が及ぶ日本船籍の外航船舶は、実は消滅寸前の状況なのだ。

船舶・乗組員、9割超を外国依存

 国土が狭く、資源にも乏しい日本は、海外から原材料や食料を輸入し、1億もの人間を養っている。小学生でも知っているだろうが、それを改めて数量で示されると大人でも思わず息を呑んでしまう。何しろ、エネルギーの96%、食料の60%を輸入しているのだ。

 財務省の貿易統計によると、2008年の輸入量は原油2億4176万キロリットル、液化天然ガス6926万トン、石炭1億9167万トン、鉄鉱石1億4035万トン、非鉄金属鉱石1443万トン、穀物2648万トン、野菜・果実506万トン、肉・魚介類460万トン、大豆371万トン・・・。凄まじい数字が並んでいる。

 冒頭で言及した通り、これらのほぼ全量が船舶で運搬される。国土交通省の「海事レポート」によると、2007年の海上輸入量は8億1384万トン。このうち我が国商船隊による輸送量(積取比率)は64.8%となっているが、その大半は外国用船(日本の外航海運会社がチャーターしている外国籍船)によるもの。邦船(日本籍船)に限れば、積取比率は5.3%にすぎない。邦船そのものが激減したことが主因だ。