北朝鮮に開業した大型リゾート(7月2日、写真:AP/アフロ)
北朝鮮国営の朝鮮中央通信が発信する写真を見ていると、相変わらず「ちょっと笑える写真」がある。
北朝鮮は、なぜ「笑える写真」を発信するのか不思議でならない。
北朝鮮国営の情報発信は、金正恩総書記が国内のすべての決定に対して、「指導」しているというスタンスである。
このことで、「北朝鮮は、韓国よりも優れている」「人民は指導者のお陰で幸せである」「楽園の国」であるというイメージを作ろうとしている。
そのため、写真はこれらを具現化したものでなければならない。だが、実際は違っている。
だから、そのギャップを隠せないために、笑える写真が発信されるのだ。広報部門がチェックしても気づかないのだろう。
北朝鮮の写真は、なぜ笑えるのか。どのような笑いなのか。どのように作られるのか。そして、なぜ笑える写真を発信するのかについて、具体的な事例を挙げて紹介する。
今回の記事を読むにあたっては、JBpress「北朝鮮の笑える写真集、軍事力誇示のつもりが逆効果 嘘や合成がバレバレ、得意満面の金正恩は世界の笑い者に」(2023年11月8日)を参照されたい。
1.戦闘機基地のすぐ隣に観光施設建設
北朝鮮は2025年6月、元山葛麻海岸観光地区の竣工式を行った。
そして、「昔から出色の景観で有名な海岸地帯の風致と調和し、様々な現代美を発散する数百棟の建物が完璧な芸術的互換性と連結性を成した元山葛麻地区は、名実共に世界にまたとない我々の方式の海岸観光都市である」と述べている。
北朝鮮の観光開発としては、これまでで最大の企画であるといえる。観光施設は、写真1の赤枠の部分である。
写真1 元山地区の宮殿・海岸観光地区・空軍基地
出典:グーグルアース地図に筆者が書き加えたもの
グーグルアースで見ると、観光地区は2つの地区に隣接している。
①北には、金一族がこれまで元山宮殿として使用していた地域がある。
②西には、元山空軍戦闘機連隊基地の滑走路に沿って隣接している。西に少し離れた湾内に金正恩用クルーザー港がある。
金一族の宮殿があるなど、この地は風光明媚な観光地であることで、観光施設を建設することは納得できる。
観光でこの地のホテルに宿泊する人々は、きれいな風景の中でリラックスするために来るのだろう。
だが、ここは戦闘機基地の滑走路のすぐ隣に平行して作られている。
主滑走路から240メートル、基地から140メートルしか離れていない。グーグルアース(2024年3月27日)でこの基地を見ると、「ミグ21」戦闘機15機、「ミグ19/17」戦闘機が9機駐機している。
戦闘機用のハンガー(格納庫)が12ある。この観光地は、これらの戦闘機が離発着するたびに轟音に悩まされるのである。
観光地のすぐ隣に戦闘機用の空軍基地があるのは、世界中どこを探してもほかにはないだろう。
観光施設を重視するのであれば、この基地から戦闘機を移設する案がでるだろう。だが、対韓国の軍事戦略上、この空軍基地は最も重要であり、移動させることはできない。
今後、数十キロ離れたところに基地を建設するという案もあると思うが、現在の北朝鮮の財政事情では無理だ。
騒音を発する基地とリゾート施設が隣り合わせになったのは、国の総合政策に基づいて作られたのではなく、思い付きで作られたからだ。
また、軍事戦略と経済政策がバラバラに進められているからだろう。
