なぜ、中国・国防相は欠席したのか

 2023年11月のサンフランシスコでの米中首脳会談で、バイデン政権の米国は中国との軍事対話再開に合意し、それ以降、順調に関係改善進めていたように見えた。昨年9月の米中軍事ハイレベル対話(パパロ・インド太平洋軍司令と南部戦区の呉亜男司令の対話)では、双方が南シナ海における予期しない軍事衝突回避への努力に合意していた。

 昨年のシャングリラ対話では、オースティン国防長官は中国との戦争について「差し迫ったものでも、不可避のものでもない」と言って、軍事対話の必要性を訴えていた。

習近平国家主席は「シャングリラ対話」を軽視?(写真:ZUMA Press/アフロ)

 つまりバイデン政権からトランプ政権に変わったことで、米国の中国に対する安全保障上の姿勢は大きく転換した、ということだ。これに対し、中国が国防長官と同レベルの国防相を派遣しなかったことに、なにがしかのメッセージが込められているのだろうか。

 まず、董軍国防相欠席の理由について、一般的なメディアの解説を振り返りたい。

 シャングリラ対話に派遣すべき中国の代表団の格については実は明確に規定されていない。だが2019年から、コロナ禍で対話がキャンセルされた年以外、4回連続で中国は国防相をリーダーとする代表団を派遣してきた。この慣例を破って国防相ではなく、国防大学副学長の胡鋼鋒少将ら解放軍の実務・政治に距離を置く学者集団を送りこんだのは、尋常ならざることだった。

 もちろん、過去に軍事科学院副院長クラスを団長とする代表団が派遣された年もあるのだが、それでも団長は中将以上。また中将でも副参謀長といった軍務の前線にいる人物が選ばれることが多かった。しかも、5月29日というぎりぎりのタイミングで、中国国防部は国防大学代表団を派遣すると発表し、間接的に董軍・国防相を派遣しないことを明らかにした。

 なので、今年のシャングリラ対話は、中国側がこれまでになく軽視していた、という見方がある。