総ページ848。前侍ジャパン監督・栗山英樹氏の新刊『監督の財産』が大きな反響を呼んでいる。
――想像よりずっと分厚かった(30代・会社員)
――読み切るまでにまだまだかかりそうだけど、終わってほしくない!(30代・会社員)
――大谷翔平はやっぱりすごい。でもこれだけの人が彼を生かしたんだと思うと感動を覚えました(40代・男性)
そんな本書が目指すのは「残る」ことだ。だから「同じテーマ」でも、1年目と2年目、2年目と10年目あるいは現在で異なる考えがあっても、そのまま記されている。なぜか。
結果がすべての評価を決める。監督とはそういう職業である。そのぶん、多くの場合、結果が出るまでの過程にあった監督たちの「悩み」「学び」「決断」そして「思考」は勝者のもの――つまり評価されたそれだけが、世の中に知れ渡る。
しかし、長く監督をしていれば「それだけでは足りない」ことに気づく。実際に勝利を掴むためには勝者だけではない、多くの監督や指導者、経験者たちの「悩み」「学び」「決断」そして「思考」に触れる必要があるのだ。
そしてそれは状況、時期、時間によっていくらでも違った思いへと誘う――。過去の言葉をそのまま残すにはそういう意味があった。
本稿はそんな思いで自身の経験を書籍に残し続けてきた栗山氏の集大成である話題の新刊『監督の財産』より紹介する監督の指針である。
ひとつを決める、それはひとつを捨てる作業
(『監督の財産』収録「5 最高のチームの作り方」より。執筆は2015年10月)
2013年、監督2年目を迎える頃、こう書いた(『伝える。』)。
――
『1年目の去年と2年目の今年、キャンプの感じ方がどこか違ったかといわれれば、なによりも自分自身のゆとりがまるで違っていた。
具体的な例を挙げれば、わかりやすく体調が良かった。(中略)捨てられるものが増えた、という感覚はわかってもらえるだろうか。キャンプ前半は、去年ならいちいち気になっていた細かなことが、ほとんど気にならなかった。
雑になったのとは違い、いまはまだそこを指摘すべき時期ではないということで、わかり始めてきたのだ。
去年はあれもやらねば、これもやらねばと、毎日課題をたくさん抱えてグラウンドに出ていたが、今年はその大部分を宿舎の部屋に置いて出られるようになった。捨てられるものが増えた、というのはそういう感覚だ。
そういった意味では、今年は他球団のキャンプが気にならなくなった、というのも捨てられたもののひとつかもしれない。』
――
「捨てられるもの」というキーワードについてである。
これについては、さまざまな「捨てられるもの」が、年々増えてきているような気がする。
キャッチャーのことを例にあげてみよう。