ガイトナー米財務長官が、「官民合同基金」を創設したうえで金融機関から最大1兆ドル(98兆円約)の不良資産を買い取る構想を3月23日に公表すると、「待ってました」とばかりにニューヨーク市場のダウ平均株価は急騰を演じた。上げ幅は史上5番目となる497ドルを記録し、1カ月半ぶりに8000ドル目前まで上伸した。金融危機の震源に積み上がった「負の遺産」の一掃計画は、米経済を窮地から救う起死回生策として、ひとまず評価された形だ。そして、オバマ政権が繰り出す大型景気対策や、差し押さえ回避の住宅対策との相乗効果に期待が高まっている。

米財務長官、包括的な金融規制改革案を発表

ガイトナー長官、「官民合同基金」発表〔AFPBB News

 ところが、あまり知られていないが、官民合同基金の「出し手」を担うはずのファンド筋が、構想発表直後から「国民負担が膨れ上がる恐れがある」と警鐘を鳴らしている。基金への公的資金拠出は議会承認が不要なため、入札で決める不良資産の買い取り価格設定に不透明感が強いというわけだ。構想参加に尻込みする民間投資家もあり、「買い取りが機能不全に陥る」との懸念も出ている。

 このため、ウォール街では「対策を打ったが、うまくいかないという状況を作り出し、金融危機再燃を防ぐための公的資金追加注入に道を開くのでは」との深読みまで出る始末。準備万端、後は発動を待つだけ・・・。のはずの金融安定化策には、幾つもの死角が潜んでいそうだ。

胴元は政府、レバレッジ取引が復活

 不良資産の買い取り対象は、買い手がつかない証券化商品と、焦げ付いた融資に大別される。前者は、サブプライム住宅ローン問題を契機に価値が急落した債務担保証券(CDO)などの仕組み債。それらを保有する大手金融機関は巨額の評価損を計上している。

 基金を通じた「不良証券」の買い取り原資は、原則として官民の折半拠出。買い叩かれたとしても、損失処理の段階で簿価が下がっていれば、売却する金融機関に利益(半分は公的資金)が発生する。一方、不良証券を購入する民間投資家は、市場機能回復に伴う値上がりを待つ。仮に値下がりしても、自己出資分だけをあきらめればよい。

 これに対し、「不良融資」の買い取りは、もう少し複雑になる。財務省の説明によれば、金融機関が簿価100ドルの不良住宅ローン債権を84ドルに値引き、官民合同基金を通じて売却する場合、72ドル分を連邦預金保険公社(FDIC)の保証付き融資でカバーする。残る12ドルは、財務省と民間投資家が等分する。つまり、民間負担はわずか6ドル。換言すれば、自己資本に14倍のレバレッジを利かせて不良融資を買い取る仕組みだ。

 買い取った不良債権の価値が上がって利益が発生すれば、民間投資家は一部を政府に還元するものの、大儲けできる。逆に損失が発生しても、出資分の6ドルを失うだけ。それを超える損失は、すべて政府やFDICの負担になる。圧倒的に「買い手有利」に見える仕組みには、民間投資家を呼び込む腐心がうかがえる。

 だが、米投資会社の幹部は「買い手有利、とは決して言い切れない」と警戒感をあらわにする。官民合同基金を通じた不良融資買い取りは、競争入札で価格が決まる。このため、融資の売却価格が簿価を上回る可能性もあり、その場合に金融機関が得る売却益の14分の13(約93%)は公的資金だ。この幹部は「議会の横やりが入らずに、金融機関の懐に税金が入る」と指摘、むしろ不良融資を分離・売却する金融機関側に有利に働くと見ている。