ロシア経済について日本でよく言われるのが、「情報が少ない」ということである。例えば、書店で経済関連書籍コーナーを眺めても、ロシア以外のBRICs諸国の経済に関する書籍がそれなりに目立つのに対し、ロシア経済に関する書籍はあまり目につかない。
中国経済はともかく、ブラジル経済やインド経済と比較しても、ロシア経済に関する書籍の量が見劣りすることは否めない。ただし、量は少ないものの、質の高いものが多い。
ロシア経済はほかの国より圧倒的に情報不足
国際協力銀行が製造業企業に対して実施した調査(『わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告』2008年度版)においても、ロシア経済の問題点として、32.5%の企業が「情報不足」を挙げており、「法制の運用が不透明」(40.0%)に次いで問題点の第2位となっている。
なお、同調査では、中期的(今後3年程度)に有望と思われる事業展開先の国として、ロシアは第4位につけており(1位中国、2位インド、3位ベトナム)、2007年の5位から順位を1つ上げている(ただし、この調査の実施時期が昨年9月の「リーマン・ショック」以前であることに留意する必要がある)。
さて、このように日本では「情報不足」がつとに指摘されるロシア経済であるが、先週3月17日、日本でロシア経済に関する知見を深める絶好の機会があった。
現代ロシアを代表する著名なエコノミスト3人を招き、日本を代表するロシア経済の専門家2人とともに、ロシア経済の現状と見通しを討議するという、内閣府主催のシンポジウムである(内閣府経済社会総合研究所主催の経済政策フォーラム「資源価格下落と金融危機下のロシア経済」)。
同シンポジウムに招かれたロシア側のエコノミストは、投資銀行「トロイカ・ディアローグ」チーフエコノミストのエフゲニー・ガブリレンコフ氏、アルファ銀行チーフエコノミストのナターリア・オルロヴァ氏、経済発展省マクロ経済予測局次長のオレグ・ザソフ氏の3人。いずれも気鋭のロシア経済専門家であり、当日は、ロシア経済に関するユニークな知見を披露していた。
ロシアの著名エコノミストは経済先行きを楽観視
その彼らの議論を聞いて印象に残ったのは、3人が皆、ロシア経済の今後の見通しについて、濃淡の違いこそあれ、それほど悲観的になってはいないということである。
ザソフ氏のような官庁エコノミストだけでなく、民間エコノミストであるガブリレンコフ氏、オルロヴァ氏も、条件つきではあるものの、来年以降、ロシア経済がプラス成長に復帰するという見通しを示していた。
なお、本シンポジウムについては、当日の記録が内閣府のウエブサイトで近いうちに公開されるということなので、詳しい内容についてはそちらを参照していただくこととして、次に、先週3月19日にロシア政府会議(=閣議)で決定された、2009年予算の大幅な改定案について紹介したい。
前回の拙稿(2月26日付本欄)でも触れたように、昨年11月に発効した2009年当初予算は、予算編成の前提となる原油価格が1バレル95ドルに設定されるなど、ロシア経済をとりまく実態とはかけ離れた、アウト・オブ・デートなものとなっていた。
この状況を受けて、ロシア政府は予算の大幅な組み換え作業を進めてきたのだが、既述の通り、19日付で改定予算の政府案が閣議決定された。
改定予算の政府案は、近いうちに議会へ提出されることになる見込みである。今回は、異例のことだが、議会への提出に先立って10日間にわたり、改定予算案の内容について国民の意見を幅広く求め、検討することとされている。
国民の意見が実際にどの程度反映されるかは未知数であるが、景気後退が進む中、世論調査で政府への不支持率が漸増傾向を示していることも背景に、現政権に対する潜在的な不満のガス抜きを行うという意図も指摘できよう。
さて、2009年の改定された予算案を、2008年実績や2009年当初予算などと比較してまとめると、表1の通りとなる。
表を一見して分かるように、当初予算と改定予算の間には、歳入面で大きな落差がある。すなわち、当初予算では約11兆ルーブルの歳入を想定していたものが、改定予算では6兆ルーブル台後半とされている。
この落差をもたらした要因としては、景気後退に伴う税収の自然減に加え、景気刺激策として採られた減税措置が考えられる。