(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)
8月24日に開かれた政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」の会合で、岸田首相は「次世代革新炉の開発・建設」を「将来にわたる選択肢として強化するため、検討を加速してほしい」と指示した。
昨年(2021年)決まった第6次エネルギー基本計画では「可能な限り原発依存度を低減していく」という方針だったが、今回の方針はその大転換である。何も決めない「検討使」といわれた岸田首相に、何があったのだろうか。
注目を集める「次世代革新炉」
まず「新増設」とは何だろうか。これは新設と増設という意味だが、常識的には新たな敷地に原発を建設するか、現在の敷地の中に原子炉を増やすことだろう。このうち前者は政治的には不可能に近いが、後者は不可能ではない。
図のように現在、全国で再稼動している原発は10基だが、原子力規制委員会が設置変更許可を出している原発が7基ある。合計17基が来年夏までには動くというのがGX実行会議の見通しだが、それ以外に審査中が10基あり、最大27基が運転できる。
この他に、東電の東通原発や電源開発の大間原発、中国電力の島根3号機が建設中である。それ以外に廃炉になった原発が24基もあり、これを廃炉にすると敷地は空く。ここは立地について地元の合意を得ているので、政治的な障害は大きくない。
最大の問題は、どういう技術を採用するかの選択である。これについてGX実行会議では具体的な技術が挙げられていないが、経産省が今年つくった革新炉ワーキンググループでは、次の6つの原子炉を挙げている。
・革新軽水炉(第3世代)
・小型モジュール炉(SMR)
・高速炉
・高温ガス炉
・溶融塩炉
・核融合炉
このうち現実に稼働しているのが、革新軽水炉である。
現在の軽水炉の致命的な欠陥は、電源を喪失すると冷却できなくなり、燃料棒が過熱して炉心溶融が起こることだ。これを防ぐためにECCS(緊急炉心冷却装置)があるが、福島第一原発のように全電源が失われると冷却水が循環しなくなり、数時間で「メルトダウン」が起こる。
これを防ぐために、第3世代軽水炉ABWRは、従来のBWR(沸騰水型)に比べて、外部からの注水だけでなく、原子炉内部の再循環ポンプで冷却できるように設計して安全性を高めている。東電の柏崎刈羽6・7号、北陸電力志賀2号、中部電力浜岡5号で実績がある。