英イングランド銀行(BOE)は5日に開催した金融政策委員会(MPC)で、0.5%追加利下げで政策金利(オフィシャルバンクレート)を過去最低の年0.5%に引き下げるとともに、国債などを市場から買い取って資金供給量拡大を目指す量的緩和策の導入に踏み切った。なお、キング総裁は「金利がこれ以上低下する可能性は非常に低いと考えている」と述べており、利下げはこれで打ち止めになった。
欧州中央銀行(ECB)は同日、0.5%の追加利下げで、政策金利(レポレート)を過去最低の年1.5%に引き下げた。トリシェ総裁は記者会見で追加利下げ余地の存在を明確に認めるとともに、「標準的でない手法」(=非伝統的手段)について検討中であることを確認した。
ECBが今回公表した最新の経済見通しは、非常に厳しい内容。実質GDP(中央値)は2009年が▲2.7%、2010年が0.0%。消費者物価指数(HICP)は2009年が+0.4%、2010年が+1.0%。いずれも大幅な下方修正である。
特に、2010年の見通しが物価安定の定義である「2%未満だが2%近く」を大幅に下回ったことの持つ意味合いは大きい。トリシェ総裁は「大きなデフレリスクはない」と発言したが、物価の下振れリスク(デフレリスク)が増大していることを、ECBがはっきりと認めたに等しいからである。
したがって、ECBによる一段の金融緩和措置は必至の情勢。トリシェ総裁は「ゼロ金利には多くの欠点がある」という判断を会見で今回も強調していたので、米国や英国と同様、小幅プラス金利で利下げを打ち止めにした上で、量的緩和に軸足を移していくシナリオを描いているのだろう。
なお、ECBの利下げ下限が年1%か、それとも英国と同じ年0.5%かについては、ECBの政策決定が全会一致を原則にしているだけに、ウェーバー独連銀総裁らタカ派の意向に左右されてくる。現時点では、ウェーバー総裁が金利下限1%を明言しているので、ECBの利下げ予想はそこまでということになる。
しかし、今後タカ派の発言内容が変わってくれば、年0.5%までの利下げが現実味を帯びてくる。もう1点、ECBの利下げ余地を左右してくるのは、ECBの政策金利「コリドー」の下限の問題である。5日の決定で、コリドーの中心点であるレポレートは年1.5%、上限である限界貸出金利は2.5%、下限である預金ファシリティーは年0.5%となった(いずれも11日から適用)。
「コリドー」の幅を2%で維持する場合、あと0.5%利下げしただけで、下限がゼロ%になってしまう。そこから先まで利下げを続けようとする場合には、日銀のケースのように「コリドー」の幅が狭まってしまう。そのあたりをどうするかでECB内で足並みが揃うかどうか、という問題が出てくる。
今回の英欧利下げによって、G7の中央銀行(独仏伊はECBなので実際には5中銀)が設定している主要政策金利水準の合計は2.725%となり、ついに3%を割り込んだ。さらに、いずれの中央銀行も量的緩和・信用緩和を事実上すでに導入しているか、あるいは導入を検討している段階にある。