中国が今後、少なくとも30年はアメリカと拮抗することは間違いない。政治力、経済力や技術力、軍事力では「アジアの盟主」となるだろう。そんな明るい未来がありながら、多大な犠牲を払って台湾本島に軍事侵攻し、世界から猛反発される選択をするだろうか。日本のメディアの多くは、中国軍の軍事侵攻の可能性を報じている。だが、中国政府は表向きは強硬路線を演じながら水面下で工作活動を展開し台湾を獲得しようとしている、という見方もある。中国・台湾の軍事専門家である防衛省防衛研究所地域研究部長の門間理良(もんま・りら)氏に、中国政府の台湾への工作について話を聞いた。(吉田 典史:ジャーナリスト)
中国の「戦わずして勝つ」戦略
──門間さんは、中国政府は様々な形での工作活動を通じて台湾を取り込もうとしていると、論文などで指摘されていますね。
門間理良氏(以下、敬称略) おそらく、中国政府は軍事攻撃では台湾本島全土を支配できないことを理解していると思います。
現在の中国軍と台湾軍の戦力差ならば、軍事侵攻自体は可能でしょう。しかし、アメリカ政府は在日米軍をはじめとする部隊を送り、介入するはずです。仮にそれを打ち負かしたとしても、その後、民主主義が浸透した人口2300万人の台湾を統治するためには、統治機構を作り直さなければなりません。例えば、警察や軍の組織、選挙制度、教育制度などです。これら一連の膨大な作業が必要であり、すべてがきちんとできて初めて統治に「成功した」と言えるのです。できなければ、現在のチベット自治区や新疆ウイグル自治区以上の不安定要因を中国は内部に抱えることになります。しかも、台湾は大陸から離れているので、統治はさらに難しくなることが考えられます。中国は国土と人心が荒廃した台湾ではなく、自国の発展の役に立つ台湾を欲しているのです。
本島全土を制圧し、統治する自信はおそらくないだろうし、現在の東アジアの国際関係が大きく変わらない限り、それはできません。だからこそ私は、離島で、軍事戦略上意味のある東沙島が狙われる可能性が高いことを(前回の記事で)指摘したのです。