演壇に登場する時点から、荒い鼻息が聞こえるようだった。

2月13日金曜日の米連邦下院本会議。共和党のベイナー院内総務は、自席から演壇へ向かう途中、事務方の女性の机上から分厚い書類の束をつかみ上げると、そのまま抱えて前へ進んだ。

 「ここに1100ページある。だけどここにいるメンバーの誰一人として読んでいない。ただの一人もだ! 昨日の深夜から今までの間にどうやって読めるというのか。国民に見せるという約束はどうなった?」

 そう言い放つとベイナー議員は、その1100ページを床へ投げ捨てた。

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オバマ幻想切り捨て、ベイナー氏(最前列右)〔AFPBB News

 放り投げたのは、民主党が中心になり、直前にまとめた総額7870億ドルの景気対策法案。だが、捨てたのはそれだけではない。オバマ新大統領がワシントン変革の象徴として掲げた「野党・共和党との超党派協力」という、「幻想」さえも切り捨てたのだ。ベイナー氏の派手なパフォーマンスを、2010年中間選挙、2012年次期大統領選へ向けた共和党の「宣戦布告」と受け止めた関係者は少なくない。

 共和党の言い分にも理がある。オバマ政権が最大の課題に掲げた景気対策法案は、躓きと迷走の連続だった。350万人以上の雇用創出を目指す法案は当初、8000億ドル規模で議論がスタート。大統領自らが議会へ足を運び共和党に協力を要請するなど、「超党派法案」への期待は膨らんだ。

 しかし、与党・民主党が選挙区への利益誘導予算をあれこれ盛り込むにつれ、規模は一時9300億ドル余まで肥大化。民主党は上院で安定多数の60議席を欠くため、財政赤字への配慮を主張する共和党の協力を取りつけようと、最終的には圧縮した。だが、上院共和党からの賛成票は穏健派の3人だけ。一方、下院はゼロ。保護主義の汚名を新政権に着せる「バイ・アメリカン条項」のオマケまで付いた。

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底見えぬ景気後退〔AFPBB News

 金融危機と深刻な景気後退の原因を「8年間の共和党政権の失政にある」と指摘するオバマ政権だが、1カ月で50万人超も失業者が増え続ける現状では、共和党による反撃材料にも事欠かない。2007年12月に始まった景気後退は、この4月で17カ月目となり、戦後最長に突入するのが確実。景気対策の効果が表れ始めるのは5~6月頃からとされ、底は当分見えない。

 「戦後最悪の不況を許した大統領」。こんな風に糾弾する共和党の「反オバマ」プロパガンダが、目に浮かぶ。新大統領に許された「蜜月期間」にもかかわらず、共和党が新政権との対決姿勢を強めるのも、こうした好材料の手応えを感じるからだ。

埋まらぬ「不一致」、景気対策と国勢調査

米共和党上院議員、オバマ政権の商務長官指名を辞退 経済政策に違い

商務長官の指名辞退、グレッグ上院議員(左)〔AFPBB News

 商務長官に指名されたグレッグ上院議員の唐突な指名辞退も、「反オバマ」の表面化として興味深い。当初予定した民主党のリチャードソン・ニューメキシコ州知事の指名が「献金疑惑」で断念に追い込まれた末、行き着いたのが野党・共和党からグレッグ議員の登用。ここでも、オバマ大統領は超党派重視をアピールできるはずだった。

 ところがグレッグ氏は2月12日、「解決不能な不一致」が生じたことを理由に指名を辞退。具体的に挙げたのが景気対策法案と、2010年の国勢調査をめぐるオバマ政権との立場の違いだった。翌日の上院本会議で景気法案に反対票を投じたことからも分かるように、辞退表明はタイムリミット寸前。財政タカ派で知られるグレッグ氏が、水膨れの景気法案を許せないのは理解に難くない。