企業にはどのような対応が必要なのか

 この法改正に対して、企業側はどのように対応し、就業規則に取る入れるべきでしょうか。

(1)現在の就業規則を改定する
 まずは、就業規則の「子の看護休暇・介護休暇」に関する部分を見直し、改正後の法令に準拠したものに修正しましょう。法令に則した就業規則に改定しておくことは、コンプライアンスの面からも、労使トラブル防止というリスクマネジメントの面からも、非常に重要です。

 厚生労働省のホームページには、今回の法改正に伴う就業規則の規定例も掲載されていますので、参考にしてみてください。

【参考】厚生労働省:育児・介護休暇等に関する規則の規定例 04育児・介護休業等に関する規則の規定例

 また、現状では「年次有給休暇の時間単位取得」を認めていない企業でも、「子の看護休暇・介護休暇」については、時間単位での取得を認めなくてはいけません。そのため、自社の休暇取得日数の管理方法を見直したり、導入している勤怠管理などのシステムが「今回の法改正に対応しているかどうか」を確認したりすることも必要です。

(2)時間単位での休暇取得が難しい業務にも対応する
 労働者の中には、「子の看護休暇・介護休暇」を時間単位で取得することが困難な業務に従事している方もいると思います。その場合は、労働者と企業側で「労使協定」を締結することによって、「時間単位の休暇取得が困難な業務に従事する労働者」を、時間単位の休暇制度の対象から除外することができます。なお、除外する場合は、「困難な業務」の範囲を、労使間で十分に話し合って決めましょう。

 また、労使協定により時間単位での休暇取得ができないことになった労働者であっても、 法改正前に引き続き「半日」単位での休暇取得は認めるよう配慮が必要となります。

(3)労働条件の不利益変更に注意する
(1)で述べたように、今回の法改正をきっかけにして就業規則を見直す企業は多いと思います。その際に必ず確認してほしいのは、「既存の規定を下回る変更になっていないか」という点です。

 例えば、今までは30分単位で「子の看護休暇・介護休暇」を取得できていた企業が、今回の法改正を機に、1時間単位での取得のみを認めるように就業規則を変更したとします。この場合、変更後の規定は法令上の基準を満たしていますが、労働者にとっては、変更前の規定よりも不利益なものになります。

 また、今回の改正内容で例を挙げれば、「子の看護休暇・介護休暇」で「中抜け」が可能だった企業が、「中抜け不可」に変更するというのも、同様に労働条件の不利益変更になってしまうのです。

 このように、労働条件を引き下げる変更は労働者に対する不利益となるため、企業側は「規定を変更するためには、一定の手続き要件を満たさなければならない」というルールを設けるなど、慎重な対応が必要となります。就業規則改定の際は、改正された法令の基準を順守しているかだけでなく、変更後の規定が従来の労働条件を下回っていないかも、必ず確認してください。

 少子高齢化が進む日本では、年々、生産年齢人口が減少しています。育児・介護に限らず、さまざまな事情を抱える方の就業機会を拡充、推進していく動きは、今後ますます重要になっていきます。まずはその一歩として、2021年1月1日から改正された「育児・介護休業法」に適切に対応しましょう。

内川 真彩美
いろどり社会保険労務士事務所
社会保険労務士、両立支援コーディネーター
https://www.irodori-sr.com

著者プロフィール

HRプロ編集部

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