生産性向上や業務効率化にむけて、「手をつけていいもの」と「手をつけてはいけないもの」に分ける

 以前から感じていることですが、仕事では「生産性向上や業務効率化」を信条としている人達が、一転プライベートでは非生産的、非効率的な個別のおもてなしや特別待遇に喜んでお金を出している人達も現実にいるわけです。それは究極の矛盾でありつつも、それが人間や社会のリアルな構造でもあります。不確実性の時代と言いますが、人間ほど不確実なものなどないのではないでしょうか。人間が存在している限り「常に」、不確実性の時代であると考えて判断、行動したほうが良いのではないかと思います。

 生産性向上や業務効率化が「世の中全員」に利益をもたらすのかといったら、そうではないと私は思います。ただし、「会社をつぶさない」という点だけにフォーカスをすれば、それは会社が必ず通らなければならない道です。

 生産性向上や業務効率化を実行するには、手あたり次第やるのではなく、「手をつけていいもの」と「手をつけてはいけないもの」に分類します。具体的には、次の二つの基準をもとに進めると良いと思います。

(1)生産性向上や業務効率化をしても、顧客満足度が下がらないか
 社内で挙がった効率化の案が、取引先や顧客など「外部」にも影響が及ぶ場合、それによって顧客満足度が下がらないかを議論します。しかし今のコロナ禍の場合、顧客満足度が下がるとわかっていても、効率化しなければいけないこともあると思います。その場合は、その影響度が、限定的(期間、一部の顧客層)なものに留まるのか、それ以上になるリスクがあるかどうかなどの基準も交えて議論をすると良いと思います。

(2)生産性向上や業務効率化をして、従業員の負荷が逆に増えないか
 生産性向上や業務効率化は、本来、社員が「仕事がしやすくなる」はずなのですが、そうではなく、単純に「3人でやっていたものを2人でやる」、「3時間で10組対応していたものを、2時間で10組対応する」というような形の「効率化」は、慣れるまでの一定期間は確実に社員一人ひとりの負荷が増えます。

 冒頭の話に出た知人も、2件目の旅館は、若い社員の人達が、決められた時間内に仕事をこなさないといけないという必死さが伝わってきて、「いい旅館ですね」という雑談すらも仕事の邪魔になるかもと思って躊躇してしまい、接客をしてくれている人達とコミュニケーションがあまりとれず残念だったそうです。従業員が身を削られるような効率化は、瞬間的には効果があっても、間接的な悪影響が徐々に出てきて顧客満足度の低下、つまり売上の低下につながるリスクがあります。そのため、効率化をどうしてもしなければいけない場合は、移行期、慣れるまでの一定期間はマネジメントする側は注意深く現場を観察して業務のフォローをする必要があるでしょう。

 コスト削減のためには生産性向上や業務効率化は重要なポイントですが、反面「非生産的、非効率的」なものが、むしろ売上を生む、ということもあります。経営者や総務人事担当者の方達は、生産性向上や業務効率化の取り組みを実施する前に、それらを行うことにより顧客満足度の低下、つまり「売上が下がらないか」、という検証を、実際に顧客や取引先と接している現場担当者の方達と「揉む」作業を必ず行ってみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール

流創株式会社 代表取締役 経営コンサルタント/作家 前田 康二郎

数社の民間企業で経理総務、IPO業務、中国での駐在業務などを経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」としてコンサルタント活動を行うほか、企業の顧問、社外役員、日本語教師としての活動、ビジネス書やコラムの執筆なども行っている。著書は『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』のほか、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』『経営を強くする戦略経理(共著)』、『スピード経理で会社が儲かる』、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』など多数。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)も運営している。また、2020年6月26日に新著『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』が発売された。

 

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