中東アラブ諸国にも「情報化の波」が押し寄せてきた。携帯電話が珍しかった時期はとうに過ぎ去り、都市部ではもはや「必需品」の域に達する。また、街中に乱立したインターネットカフェでは連日、若者がネットサーフィンを楽しんでいる。

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アラブ世界でもネットカフェが大人気(バグダッド)〔AFPBB News

 情報化の波がアラブ地域に本格上陸したのは、ごく最近のことだ。例えば、筆者が3年近く留学したシリアでは、2000年まで一般市民による携帯電話やインターネットの利用が禁止されており、街中でIT関連機器を見かけた経験がほとんどない。

 シリアのように「禁止」しなくても、他のアラブ諸国でも高価な初期費用などがハードルとなり、携帯電話やインターネットは庶民の道具ではなかった。一部エリートのための「おもちゃ」として使われていたに過ぎない。

 ところが、2000年頃を境に少しずつ様子が変わってきた。街中に携帯電話の端末を売る店や、コンピューターショップ、インターネットカフェなどが次々とオープン。そして今では、すっかり当たり前のメディアとして日常生活に定着している。

 その背景として、各国政府による積極的な情報化推進政策が指摘されよう。グローバル経済の下で生き残るには、中東諸国といえども新しい情報通信技術(ICT)の効果的利用を避けて通れない。自国企業の成長、あるいは外国からの投資や企業誘致のため、情報通信のインフラ整備を進めなければならない。

 また、アラブ諸国の多くは高い人口増加率を抱え、失業率も上昇傾向にある。雇用創出には、若年労働者を吸収するだけの経済成長と産業育成が必要だが、旧来の産業だけでは十分ではない。そこで、各国政府が目を付けたのが、ICT関連産業なのだ。

 同時に、アラブ諸国間の競争意識も見逃してはならない。すなわち、ICTという成長分野で地域のリーダーとなり、「国際社会で自国の存在感を高めたい」というプライドが高いのだ。この傾向は、アラブ首長国連邦(特にドバイ)やエジプト、ヨルダンなどの国で顕著に見られる。

湾岸戦争CNN報道、アラブ諸国に衝撃

 ところがアラブ諸国政府にとって、情報化の進展は必ずしも手放しで喜べない。インターネットに代表されるICTが、非民主主義的な政治体制の基盤を脅かすリスクを内在するためだ。

BBC、アラビア語衛星放送を開始へ

英BBCもアラビア語衛星放送〔AFPBB News

 アラブの各国政府は新聞やテレビ、ラジオなどのマスメディアに対し、「情報の流れ」(flow of information)を統制する政策を維持してきた。当局が国外情報へのアクセスと自国情報の対外的発信をほぼ独占。国内では国営テレビ・ラジオ、政府系新聞といった主要メディアを政府管理下に置き、国民への情報発信をコントロールしてきた。

 こうした状況に劇的な変化を及ぼしたのが、1990年頃から普及し始めた衛星放送。1991年、米CNNによる湾岸戦争報道を通じ、アラブ世界の市民は衛星放送の影響力に衝撃を受けた。CNNに刺激される形で、湾岸諸国では衛星放送局が続々誕生し、アラブ地域の視聴人口は徐々に拡大した。