上場企業の対応
~大手企業を中心に約半数が改革を実行。未着手の企業は対応が急務に~

 さて、これらの規制に対する企業の対応はどのようなものだったでしょうか。まず、「役員報酬制度」の面では、「短期インセンティブ(賞与、業績連動報酬など単年度の業績に連動する報酬)」および「長期インセンティブ(株式報酬など複数年度の業績連動する報酬)」、特に「株式報酬の導入」が大きく進みました。2019年6月時点では上場企業の約4割の企業が株式報酬を導入しており、その後も導入が進んでいます(図1)。

 EYでは、東京証券取引所上場の17業種の売上高上位企業の開示情報から役員報酬制度の動向を継続的に調査しています。対象企業85社では短期インセンティブで9割以上、長期インセンティブで8割以上の導入率となっており(図2)、日系企業の役員報酬制度も基本報酬、短期・長期インセンティブという「グローバル・デファクトの報酬構成」に収斂されてきた、といえるでしょう。

図1:株式報酬の導入率

図2:各業界上位企業のインセンティブ報酬の導入状況

 業績連動報酬の仕組みについては、2018年の「開示府令改正」にともない、積極的に開示する企業が増加しています。EY新日本有限責任監査法人による、JPX400企業216社の2019年3月期の有価証券報告書にもとづく調査(※3)によると、「業績連動報酬」が含まれる会社が186社(86%)、そのうち約半数の92社(49%)が「固定報酬」と「業績連動報酬」の割合を記載、166社(90%)が「業績評価指標」を開示するなど、役員報酬制度の開示が大幅に進んでいます。

「ガバナンス体制」の面では、独立社外取締役の選任が進み、東証一部上場企業においては9割以上が複数名を選任、取締役会の3分の1以上が独立社外取締役である企業も44%となっています(図3)。指名・報酬委員会(法定・任意)の設置も東証一部上場企業では半数程度にまで増加しており、一貫して増加傾向となっています(図4)。

 独立性の高い指名委員会によるCEOサクセッションにより透明性の高い選任プロセスは、株主や従業員に対する説明責任を果たすとともに、選任の実効性という面でも効果が出てきている事例が増えています。「改正会社法」での社外取締役の選任義務化も含め、ここ2~3年間でこういった「独立社外取締役を活用したガバナンス強化」の取り組みが一層進化してくことが想定されます。

図3:独立社外取締役の選任状況(東証一部上場企業)

図4:指名・報酬委員会の設置状況(東証一部上場企業、法定・任意計)

 一方で、このような詳細な開示情報の充実にともない、株主や投資家、議決権行使助言会社をはじめとする外部機関(我々のようなコンサルティング会社も含む)による調査や分析も深まり、「ベンチマーキングなどの比較分析が可能となる」ということも企業にとってのポイントとなってくるでしょう。事業戦略の実現に向けた「攻めの経営」を支えるインセンティブという内部的視点に加え、ガバナンス体制や役員報酬制度の「実効性」に対する外部の検証に耐えうる仕組みや制度の構築が、上場企業としてますます必要となってくると思われます。

 次回以降は、インセンティブ制度を中心に最新事例を参照しつつ、「今後のあるべき役員報酬制度・株式報酬制度」について考察していきたいと思います。

【参考資料】
※3:EY新日本有限責任監査法人 2019年3月期 有報開示事例分析「第15回:役員の報酬等」

著者プロフィール

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープルアドバイザリーサービス パートナー
リワード&アナリティクスチーム リーダー
野村 有司

大手ベンチャーキャピタル、外資系組織・人事コンサルティングファームを経て現職。人事制度設計、M&A局面における制度統合・HRDD・リテンションプログラム設計、グローバル・ガバナンス設計、従業員意識調査など、広範なプロジェクト経験を有する。特に、リワード(報酬関連)分野においては、役員・従業員、日系企業・外資系企業を問わず国内有数のプロジェクト経験を有し、情報や知見の発信をおこなっている。

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