「ワークルール集」という社内で唯一の「働き方に関する取扱説明書」

 ここでいう「ワークルール集」とは、単に社内でバラバラになっている規程の重要なポイントをまとめたものではなく、自社で発生しうる「勤務イベント」を時系列に整理し、それぞれで必要となる法令や社内知識、勤務管理システムへの登録方法などもあわせて記載したものを指します。下図は、勤務イベントの整理フレームです。

図:1日の勤務イベント整理フレーム(9時始業、17時終業の場合)

 アプローチとしては、最初に1日を就業管理上の時間帯で区分し、それぞれで発生しうる勤務イベントを洗い出します。勤務イベントは自社の「就業規則」や「労使協定」で明文化されているものから現場の慣行まで、できるだけ網羅的に書き出します。

 よくある明文化されていないケースは、例えば「直行・直帰」や「出張」における移動時間と、日中の移動時間(自社で始業し終業)のそれぞれを労働時間として取扱うかどうかについての取り決めです。行政解釈(※3)は発されていますが、それだけでは従業員は各々の解釈で勤務時間登録する可能性もありますので、会社としての解釈と周知は必要です。この例に限らず、明文化されていない慣行は、ワークルール集の作成を機に改めて制度として整理することが重要です。

 勤務イベントを整理した後、自社で適用している労働時間制度ごとに各勤務イベントで必要な知識や、取るべきアクション、サポートツールを洗い出します。例えば、裁量労働制の従業員に対して、始業時刻の指定や遅刻の概念を当てはめるのは不適切といえます。各労働時間制の従業員に対し、どの勤務イベントが適用されるかをしっかりと整理し、その作業工程の中で必要に応じて就業規則や労使協定などの内容を整備しましょう。

 上記のようにパターンを洗い出し、勤務時間登録者と承認者それぞれの観点でまとめたものがワークルール集となります。大事なのは従業員がワークルール集に簡単にアクセスできることです。社内イントラネットへの掲載はもちろん、冊子を作成して従業員一人ひとりに配布することも効果があります。ワークルール集の情報をベースにしたChatbotの導入を検討している企業もあります。

 このようなワークルール集の作成は、導入にそれなりの工数が必要となりますが、一方で勤務時間登録に関する人事部への問い合わせや誤登録の低減にもつながります。

※3:厚生労働省「労働時間の考え方:『研修・教育訓練』等の取扱い」など

行動阻害要因(煩わしさ)を取り除く

 労働時間に関する知識を身につけた後は、多様な働き方と共存する「勤務時間登録・管理ツール」を準備します。法令では厳格な労働時間管理を求めていますが、労働時間制度を柔軟に使いながら、デジタルツールも活用することで管理は可能です。労働時間管理で重要なツールは「勤務時間登録」、「モニタリング」、「承認」の3つですが、多様な働き方の実現では特に2つ目の「モニタリング」が重要になります。

 次回はモニタリングを中心に、労務管理ツールに求められる機能を整理します。

著者プロフィール

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープルアドバイザリーサービス ディレクター
茂 陽介

外資系総合コンサルティングファーム、事業会社を経て、2017年9月より現職。コンサルティングファームでは主にHR領域のマネジメントプロセス設計・改善に関するサービスに従事。事業会社では人事企画担当として人材マネジメントに関する制度設計、事業統合やカーブアウト時の制度統合・新設を担当。近年はコンプライアンスと生産性をキーワードとした多様な働き方の実現に関するコンサルティングサービスを専門としている。

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